経済評論家の池田信夫氏が『日本が「シェール革命」の恩恵を受けるにはパイプラインが必要だ』と主張している。ここでのシェール革命は、シェールガスを含む非在来型天然ガス*1と、シェールガス採掘技術を応用したタイトオイルの生産拡大のことだ。
さて、そんなにパイプラインは重要な要素なのであろうか?
1. 天然ガス輸入コストに閉める輸送費は大きく無い
実の所、輸送コストはそうは大きくない。2005年ぐらいまではパイプラインを使っている欧州と、使っていない日本で天然ガス輸入価格は$1/Mbtu程度の差しかなく、2008年以降の輸入価格差をほとんど説明できない(図録▽天然ガス輸入価格の推移)。池田氏は日本は「アメリカの5倍という高価格で調達」と言うけれど、2011年で3倍程度だし、米国も2008年までは輸入コストは高かった。
2. 石炭とLNGの発電コストは現状でも大差は無い
池田氏の「パイプラインでガスを輸入できれば、価格はLNGよりはるかに安く、石炭並みになる」と言うのは誇張しすぎで、実際のところ石炭も液化天然ガス(LNG)も、例えば発電コストで見るとそう大差が無い。2010年の発電コストの差を比較すると、石炭が9.5~9.7円/kWh、LNGが10.7~11.1円/kWhになっている(エネルギー・環境会議コスト等検証委員会(2011))。燃料コストを1割削減できれば0.8円ぐらい安くなるので、石炭火力に近づくのは確かではあるが。
3. パイプライン無しでもシェールガスの恩恵はある
そもそも、シェールガス、LNG、石炭は代替財であるので、シェールガスの価格が下がればLNGと石炭の価格も下がる。パイプラインが無くても、恩恵は得られる。また、オーストラリアや米国からシェールガスを輸入するとすれば、LNG化する事になる。ロシアから天然ガスをパイプラインで輸入する事が決定的に価格を下げる事になるかと言うとEU程度にしかならないであろうし、EUと同様に地政学的リスクを負うことになる。
4. ロシア側は乗り気を見せていない
池田氏は「サハリン経由のパイプラインは技術的には可能であり、ロシアも前向きだ」と主張するが、2012年6月29日にロシアの国営天然ガス企業体ガスプロムのアレクセイ・ミレル社長は、「技術的にも経済的にも合理的でない」と述べ、断念したことを明らかにしている。
LNGとパイプラインの分岐距離は陸上で3,000km、海底で1,500~2,000kmと言われているそうだが(山本・秋山(2004))、事業者側が乗り気でないと言う事は、効率性に疑問があると言う事になる。
*1タイトサンドガス、コールベッドメタン、バイオマスガス、シェールガスなどがある。
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