2011年6月13日月曜日

犬も食わない池田-濱口論争を整理してみる

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労働問題が御専門の濱口桂一郎氏から、池田信夫氏のエントリーを批判したエントリーへのリンクを頂いた(hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳))。

リンクを頂いたエントリーと、そのリンク先を拝見したのだが、過去に濱口氏と池田氏はフリーターの増加という労働問題を契機に、相互に人格を批判するに至ったらしい。

タイムリーでは無いが、日本の労働史に触れる機会になったのと、両者の議論で理解できない部分があったこと(論点(1))と、濱口氏の池田氏批判に関して僭越ながら意見があったので感想を記載した。なお、池田信夫氏の濱口氏批判に関しては、あえて今回は触れない。

1. 犬も食えない論争

発端は、恐らく池田氏の「労働組合というギルド」というエントリーに、濱口氏が、「半分だけ正しい知識でものを言うと・・・」で池田氏のギルドと言う用語の使い方を批判した事だ。池田氏が指摘されたことに反論するだけではなく、濱口氏の学歴・経歴や過去の論文を批判しだし、論点が霧散してしまっている。

切込隊長BLOGでは、両者の議論が噛み合っていないと、濱口氏と池田氏の論争を批判している。同意せざるをえない。

論点(1) ギルドと日本型企業別組合の違い

濱口氏と池田氏の議論が噛み合っていない理由は、池田氏の記述が情緒的なのと、濱口氏が池田氏の論点を整理しなかったためだ。このため、濱口氏と池田氏の議論が噛み合っていないように感じられる。

池田氏の主張は、労働組合の存在が自由な解雇を阻み、それが若年層の正規雇用を妨げているという主張のように思える。労組の由来がギルドだとか、組織労働者が減っている問題も上げられているが、池田氏の主張と関連が見られない。

現代の日本型企業別組合が解雇コストを引き上げているモデルか実例を池田氏が引用していれば、より説得的な文章になったと思うが、そうではない。組織労働者が解雇に反対するデモの報道を見れば、労組が解雇コストを上げていることは説得的に思える。しかし、ストライキ権が認められているから、ストライキが発生するわけだ。法と判例が解雇を拒んでいるとも言える。また、労組が解雇の問題であれば、労組の組織率が低下している事で、日本の雇用流動性は高まっているように思えるが、池田氏はこの点に言及していない。

濱口氏の批判は、ギルド的労働組合と、日本型企業別組合は性質が異なり、ギルド的労働組合には池田氏が主張する機能は無いと批判している。この批判は恐らく間違いではないのだが、池田氏の結論を覆すものかが分からない。もし池田氏の結論を覆すものであれば、結論を整理したうえで、それとの関係に言及すべきであったように感じる。

追記(2011/06/17 03:00):ギルドと日本の企業別組合の違いに関して、「労働組合は賃金カルテルだが・・・」で濱口氏が追加説明していたので、リンクする。

論点(2) 臨時工の権利問題

濱口氏の「世界の労働」に掲載された論文「雇用の格差と人生の格差」について、池田氏が批判を開始した(池田信夫blog(旧館))。組合の話が消失しているが、濱口氏が池田氏の指摘点を、明治時代の期間工と、大正後期~昭和初期の期間工で状況が異なると説明している。労働者の法的権利の変遷が分かるので、一読する価値はある。

論点(3) 女工哀史や富岡日記

池田氏が戦前の繊維工業の女工の待遇が良かったと指摘している事に関して、濱口氏が当初の待遇の良い時代は短期間で、犯罪紛いの悪環境が長い時代続き、1916年の工場法施工後に状況が改善したと事実認識の誤りを指摘している。労働法規の重要性が分かる文書なので、これも一読する価値はあると思う。

論点(4) 濱口氏と池田氏の学歴・業績

犬も食わない論争の主足る理由はここで、議論の主題とは何ら関係の無い部分だが、両者の相性が悪い理由でもあるので取り上げる。

濱口氏は厚生労働省出身の労働問題の専門家で、労働問題に関する論文・著作が多くある。学者としては分析手法で勝負するタイプではなく、事実関係を大量に積み上げるタイプの人のようだ。東京大学大学院で客員教授の経験もあり、政策研究大学院大学教授でもある。博士号は無いようだが、東大に博士論文を出せば受理されるのではないかと言う経歴だ。学位の無い研究者は日本に多く、国際的にもたまにいる。

池田氏はNHK職員出身のブロガーで、学術博士(政策・メディア)だ。ウェブ力が強い人と評されている(Market Hack)。上武大学特任教授なので教育者でもある。経済学者を名乗っており、一般向けの著作は多いが、所属学会や査読論文は不明だ。池田氏の博士論文は「情報通信産業のアーキテクチャについての研究」となっており、経済学の手法(不完備契約理論・ゲーム理論)を用いて制度分析を行っている事になっている。IPv6や、電波オークションに関するディスカッション・ペーパーがあるので、情報通信産業の分析が御専門のように思える。

池田氏に関しては、経済学者なのか疑問を持たざるをえない部分もある。まず、『私は海外の査読つき雑誌にも国際学会にも出しているので、業績はゼロではありません。』と宣言しているが、東京経済研究センターが出している国内の英文雑誌に書評が一つ、経済学会では無さそうな国際学会での報告が2回確認できるだけだ。次に、ブログやTwitterには、契約理論への理解を疑うようなもの資本レンタルコストを忘却したものなど、経済学的におかしい記述も多い。さらに、最近の池田氏は『経済学の本業は「経世済民」で、論文を書くのは大学や学界で地位を得るための「生活手段」にすぎない。』と言い出している。

濱口氏は労働問題の定性的研究で業績がある研究者で、池田氏は評論家として著名な人物であると言うのが、私の印象だ。緻密な議論が必要な研究者と、愉快な語り口が必要な評論家で、同じ問題を論争すると、こういう結果になりがちなのは分かる。

2. 池田-濱口論争の勝敗

論点(1)は噛みあっていない。労働組合と解雇コストに関しては、濱口氏に見解を伺いたいと思っている。論点(2)と(3)は、情報の質的に濱口氏の主張が説得的だ。

論点(4)は、濱口氏が研究者で、池田氏が評論家という立場が違うことしか確認できないのではあるが、濱口氏が池田氏を学際的な人間だと誤解したのは問題だと思う。研究者の不勉強は批判に値するが、評論家の不勉強はそういうものだ。労働問題の専門家たる濱口氏は、既に確固たる教育・研究業績と地位を気付いている。ゆえに池田氏の反論の中から、議論に値する部分だけ反応すれば十分であったはずだ。

3. 濱口桂一郎氏を批判する

濱口氏が「池田信夫氏の3法則」で、池田氏の議論の姿勢を批判している。内容はともかく、濱口氏の立場の人が、このような批判をする事は感心しない。

池田氏を批判する意義は、池田信夫氏ブログの読者に、専門的見地から社会問題を考えるための資料を提供することだ。池田氏に自身のエントリーを修正させる事は、過去の事例から見る限りは、期待できない。

大抵の第三者は、肩書きではなく内容で評価するため、同レベルで人格批判を行っていると、内容の批判が目立たなくなる問題がある。それでは批判エントリーの意義が無くなるので、池田氏の主張への批判に集中するべきだ。

濱口氏のブログは専門家が一般人へ情報を提供している貴重なブログだと思う。内容的に毎日読む人が多いとは思わないが、完全に娯楽として読まれているブログと違って、真摯に情報を欲している人がアクセスしているはずだ。濱口氏には、そういう人に情報発信を続けて欲しいので、あえて濱口氏の池田氏批判を批判したい。

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