2011年6月3日金曜日

周波数オークションでは、免許料は料金に転嫁されない?

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導入されそうもない周波数オークションについて検索をしているときに、やや経済学的に問題のある記事を見かけたので、指摘しておきたい。

周波数オークションとは、周波数帯域の利用免許を競売で企業に割り当てる方法で、近年、諸外国で一般化してきている。必要な企業が頑張って落札するだろうから、電波利用の経済効率性が増すと考えられており、また役所の理解を得られずらい新技術の参入が容易になり、周波数割当の公平性が増すと考えられている。

さて問題がありそうなのは、池田信夫氏のブログ記事ウェブページの「オークションで払う免許料は価格転嫁されない」という主張だ。

1. オークションで払う免許料は価格転嫁されない?

ミクロ経済学の教科書で、埋没費用(Sunk Cost)は生産物の価格に反映されないと書いてある。だから以下の池田信夫氏の作ったFAQの以下の部分は一見は正しい用に見えるのだが、良く考えると正しくない。

オークションで払う免許料は、落札後1週間以内に現金で全額払い込むサンクコストなので、サービス料金に転嫁することはできない。

二つの理由で、免許料は埋没費用だけになるとは言い切れない。まず、定期的に再免許を取得する場合、期限があるので限界費用になる。また、免許更新が不要でも、企業は株式か借入で資金調達をしてくるので、(長期の意味で)限界費用も発生する。例えば金利5%で借入し、1兆円の落札費用を払えば、毎年500億円の経費増になり限界費用に加わる。つまり、オークションで払う免許料は、何らかの形で価格転嫁される。

オークションで払う免許料が限界費用と全く関係ないのであれば、「100兆円で落札しても、ケータイ料金は同じで済むんや!(`・ω・´)キリッ」と言う事になるが、それは無い。教科書の前提と、実際の世界の違いが分かっていない典型例。

2. 携帯電話市場は寡占的なので、業者は談合してサンクコストを転嫁するかもしれない?

池田氏はサンクコストが価格に与える影響についても、以下のような不適切な記述をしている。

市場が競争的であれば、サンクコストを転嫁することはできないが、現実には携帯電話市場は寡占的なので、業者は談合して転嫁するかもしれない。

一般的なミクロ経済学の教科書では、独占・寡占企業も限界収入と限界費用が一致する価格設定を行う。つまり、あまり値段を下げずに利益を確保するわけだが、ここではサンクコストは考慮されない。

直感的には、談合して免許料を価格転嫁することができるのであれば、最初から高い価格にしておくのが独占・寡占企業という事になる。

つまり、固定費用なのか、限界費用なのかが、価格に転嫁されるかのポイントになる。限界収入と限界費用が競合会社が問題になり、サンクコストは価格に影響を及ぼさない。

3. サンクコストが大きいと寡占化しやすいよね?

池田氏は言及していないが、サンクコストが大きいと新規参入者が少なくなると言われており、既存企業の利潤が大きくなりがちだ。この意味でも周波数オークションが、理論的に価格を引き上げる可能性はあるが、参入者が増えるか減るかは市場の条件によるであろう。

ただし、もともと通信業界は既存方式のサービスに新規事業者が参入してくるようには思えないので、考慮すべき点なのかは良くわからない。言及する必要性は特に無いように感じられる。

4. 携帯電話会社は損をする?

需要の価格弾力性に依存するが、価格があがれば収入が減るであろうから、周波数オークションで損をする。もちろんスマートフォンが喫煙よりも中毒性があるという指摘は、ここではあえて無視する。

5. 引用している文献の想定通り?

池田氏の論文にはPaul Klemperer(2004)が引用されており、そこでは電波利権がサンクコストになる事が書かれていたのだと思うが、再免許の取得や、資本コストの問題を整理しないと、同文献のモデルには当てはまらないのでは無いであろうか。

なお、池田氏が永続的に免許が与えられると想定しているのであれば、金利費用しか転嫁しなくていいので、1兆円で落札しても1兆円分が価格転嫁されるわけではない。落札金額がそのまま価格転嫁されないと書けば、良かったと思う。ゆえに、間違いではなくて、問題があると評した。

6. 通信料金は結局、上がるの?

実際の世界では、技術革新による通信機器の価格低下の効果が大きく、周波数割当の透明性が増す事による競争促進の効果があるので、影響が出るかはわからない。

2000年の英国の周波数オークションのように数兆円規模の金額になれば、何らかの影響が出るだろう。英国や米国ではパケット料金定額サービスがなくなっていたりするので、費用分析を詳細に行えば影響が観測できる可能性もある。

ただし近年の落札価格の事例は、もっと少ない金額になっているし、利用周波数帯は通信機器と違い減価償却不要な資産なので、同じ投資金額でも企業負担はもっと少ない。むしろ政策的には、大手キャリアが『談合』で、入札価格を制限する可能性も考慮する必要があるかも知れない。

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