6月2日に提出された不信任案の意義が理解できないと言う意見がある。震災対応とされる、義援金の配分や原発災害の後処理の見通しが立っておらず、東北の沿岸部では選挙を実行できるか疑問も持たれているからだ。
しかし、菅政権が機能すると思っている方が間違っている。機能するはずがない。理由は簡単で、菅首相の能力以前に、民主党の内部で重要法案に対する姿勢が一致していないからだ。
1. 民主党重鎮間の政策方針は大きく違う
以下の表は、2011年に入ってからの民主党代表経験者の幾つかの政治問題に対する発言をまとめたものだが、菅・岡田・前原氏の方向性と、小沢・鳩山氏ラインの姿勢は明確に違う。
消費税 | TPP | 原発 | 子ども手当 | 外交 | |
---|---|---|---|---|---|
菅直人 | 増税 | 参加 | 維持 | 廃止 | 親米 |
鳩山由紀夫 | 維持 | 不参加 | 維持 | 推進 | 親中 |
小沢一郎 | 維持 | 不参加 | 脱原発 | 推進 | 親中 |
岡田克也 | 増税 | 参加 | 維持 | 廃止 | 親米 |
前原誠司 | 増税 | 参加 | 維持 | 廃止 | 親米 |
菅首相に逆らう、小沢・鳩山氏という構図となる。
2. 選挙公約的には小沢・鳩山氏が正当だが、国民には不人気
厄介なことに正当性はどちらにあるかが分からない。なぜなら、民主党が2年前の衆院選挙時に打ち出していたマニフェストは、明らかに小沢・鳩山氏の主張に近いからだ。そもそも鳩山氏が代表のときに選挙を大勝している。
しかし、民主党のマニフェストは、現時点では国民の支持を得ていないし、国庫負担が大きいために実現が不可能だと分かっている。菅内閣も不人気ではあるが、小沢・鳩山氏も国民の支持を得ているとは言えない。それに党代表は菅氏だ。
党の方針としては小沢・鳩山氏に正当性があり、国民の支持という面では菅・岡田・前原氏が人気がある。世論調査では個別の政策方針では菅内閣の支持は低くないのだが、遂行能力、つまりリーダーシップで大きく支持を落としている。
3. 民主党は解体の時を迎えている
このように、重要法案で与党内で意見の一致が見られない場合は、どうすればよいのであろうか?
小沢・鳩山氏と路線を異にする人々が、新党を設立をする。そして、重要政策への方針をマニフェストとして表明し、選挙を戦うのが誠実な対応となる。「ぼくに投票をして、消費税増税支持者になってよ」と選挙活動をした人が首相になれば、当然、消費税は増税の方向になるわけだ。決着をつけるための選挙が必要なだけで、問題の解決方法は簡単だ。
もっと現実的な方法もあるだろう。例えば小沢・鳩山氏と路線を異にする人々が、新党を設立をする。そして、自民党に閣外協力を行っても良い。
4. 菅首相の退陣で問題は解決するのか?
状況からして、小沢氏、鳩山氏が組閣する可能性は低い。小沢氏は刑事裁判を抱えており、鳩山氏の辞任の引き金になった、普天間基地移設問題はまだ決着がついていない。
岡田・前原氏が就任しても、党内多数派にはなれないので政策遂行能力は低く、すぐにレームダック状態になる。海江田氏や枝野氏の主張は現閣僚なので明確なことは分からないが、小沢・鳩山氏と異なる事は予想される。
政治機能が死んだままになるか、民主党が崩壊するかの二択だ。
5. 政策と二大政党制の二択
もちろん民主党が崩壊すると、二大政党制はあえなく消え去り、菅・小沢・鳩山氏が目指した自民党を代替しうる政党は、結局うまく機能しなかったことになる。
しかし、政策面で見ると、菅・岡田・前原氏は最大野党・自民党と政策が近いので、ごく普通に考えれば谷垣氏の主張をサポートする事になるのであろう。消費税率があがり、子ども手当てが廃止される。TPPは自民党内でも反対派はいるが、最終的には参加する事になるだろう。つまり、重要法案が幾つも決着する。
現在の政治的麻痺状態は、二大政党制の維持を優先させる余り、政策遂行という現実が処理できていないとためと言える。
6. 政治システムは問題がなのか?
政治システムが問題で、こういう状況に陥ったという主張がある。しかし、任期終了前の米国の大統領が死に体になりがちなのを思い出して欲しい。また、小選挙区制度を導入し、二大政党制にすることで、政治的な問題を解決ができるという、かつての選挙制度改革の話を思い出して欲しい。にわかに取りざたされている首相公選制も、イスラエルでは政治的不安定を招いた。いかなる制度でも、政治的膠着状態は発生しうる。
内閣不信任案は同一国会会期中は一度しか提出できない(一事不再議原則)のは、慣例の問題だ。状況が大きく変化したと十分多数の議員が思えば、再提出しても問題ない。国会法第五十六条の四で、再審議はできないそうだが、再審議は不要だろう。ゲーム理論を背景に制度的問題で首相が居座っていると主張する人もいるが、前提となるゲームのルールは、実際の所は首相に不利だ。
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