経済学者を自称する池田信夫氏のTweetが流れて来た。「いまだにこういうのが来るが、君は石炭火力が原発の100倍の放射性物質を出すことを知っているか。 RT @cake_tea: 経済優先か人命優先かのスタンスの違いと思える。」だそうだ。
なぜ「経済優先か人命優先かのスタンスの違い」と言われて、池田信夫氏が発電源別の放出放射性物質の量の話を始めたのかが分からないが、石炭火力が原発の100倍の放射性物質を出すと言う氏の主張を検証してみる。
石炭火力発電所は放射性物質を放出している。石炭灰にはウランが0.095~0.097Bq/g、トリウムが0.072~0.091Bq/g含まれているそうだ。原子量が分からないが、半減期はとても長いと考えられる。それから発生する放射線量は年間換算で0.12~0.13ミリシーベルトになるそうだ(電気事業連合会)。
碧南火力発電所(5基・410万kW)では、年間に1000万トンの石炭を消費し、100万トンの石炭灰が発生している(中部電力)。つまり、年間でウランが950~970億Bq、トリウムが720億~910億Bq放出されている事になる。
桁が大きいので膨大な量に思えるが放射線量は大きくないし、コンクリートなどで再利用されるときは拡散するので安全性に問題は無いそうだ。福島第一原発で大気中に流出した放射性物質は77万テラベクレルと言われるが、碧南火力発電所から出る放射性物質は0.19テラベクレル弱でしかない。甚大事故発生時の放出放射性物質の量は、圧倒的に原発の方が多い。
平常運転の原子力発電所から外部に放出される放射性物質はほぼゼロだ。110万kW1基がある東通原発で、気体は検出限界未満であり、液体は三重水素が2008年と2009年の平均で0.16テラベクレル外部に放出されているが、β線しか出さない安全な核種だ。ただし固体廃棄物は、近年は200Lドラム缶で年間2000本以上が発生している(東北電力)。これは石炭灰とは異なり管理を要する。健康や人命とは直接は関係ないが、放射性物質が問題になるのは原発なのは間違いない。
特定の発電所の特定の時期の比較に過ぎないが、このように平常運転の石炭火力と原発を比較すると、出力あたりで原発は火力の3倍の放射性物質を外部に放出しているので、石炭火力が原発の100倍には根拠がないように思える。ガンマ線を出す核種に限定すれば、今度は逆に原発の放出量が0になるので、石炭火力の排出放射性物質は100倍どころでは済まない。池田氏は何かの文献を見たのだと思うが、常識的な情報とは言えない。出所を明記すべきであろう。
平常運転では石炭火力も原発も、外部放出される放射性物質は問題ではない。どちらも安全と見なせるモノを比較しても始まらない。トリビア的に面白いが、大抵の反原発の人々は福島第一原発と同等の事故が今後も発生しうる事を心配しているわけで、石炭火力が出す放射性物質は意味が無い情報となっている。
追記(2011/06/27 22:03):池田信夫氏が言及したわけではないが、「100倍の放射性物質を出す」のソースはGuardian誌も引用したScientific Americanの記事のようだ。なお、当初は「100倍の放射性廃棄物を出す」と書かれていたが、「周辺環境に100倍の放射線をもたらす」と訂正されている。池田氏のTweetでは訂正前のニュアンスになっており、あまり適切な表現では無い。
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