2013年1月6日日曜日

菅原晃氏の経済談義における合成の誤診

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揚げ足取りになるのだが、経済本の著作がある菅原晃氏の「人口減少デフレ論の問題点 藻谷浩介氏への回答」の中で気になる部分があった。一見、正しい気がするのだが、実はおかしな議論になっている。

インフレまで考えれば14兆円の消費増は可能であろうし、消費が減ると投資も減ると言う合成の誤診も起こしているし、藻谷氏に引きずられているのであろうが、そもそも民間投資や民間消費は内的に決定されることを忘却しているようだ。

1. 14兆円の消費増は不可能? ─ 預金不足は発生しない

政府も企業も負債が多いのです。いきなり14兆円分の債権を増やす(家計の肩代り)のは不可能です。

たとえば、家計が14兆円分の預貯金を引き出すとします。それは、14兆円分の「国債」が金融機関によって市場に放出されることです。あるいは、株や社債が14兆円分、市場に放出されるということです。こんなことをすれば、「国債」「株」「社債」は価格下落します。

フローとして平均消費性向が5%ぐらい増えると見る方が経済学的だと思うが、ストックで14兆円の貯金が減ると言う話になっている。しかも、貨幣の名目値の話になっているので、問題の指摘に失敗している。

家計が14兆円分の預貯金を引き出し、14兆円分の「国債」が金融機関によって市場に放出されるとしよう。続けて家計は14兆円分の買い物を行い、企業が14兆円分の売上げを得て、金融機関に14兆円の預金をする。金融機関のバランスシートは最初と最後で変化しない*1

狐につまされた気がする? ─ 菅原氏の議論では実物資産に言及していないから、本当に発生しうる問題の指摘に失敗している。企業が14兆円分の在庫を持っていたら、問題は起きない。企業が十分な在庫を持たない場合は、インフレーションが発生する。

フローで考えれば、投資水準が減って生産量も減るので、実は実質国民所得が減る可能性もあるのだが、生産無しのストックだけで考えるとこう言うことになってしまう。また、生産が無いから金利も議論しづらい*2

2. 消費が減ると投資も減る? ─ 国民所得=消費+投資ですよ

われわれが消費せずに貯蓄を増やすと、企業はモノ・サービスが売れないので、生産を縮小したり、値段を下げたり、新たな投資を控えます。GDP(国内総生産)が減ります。GDPが減るので、われわれの所得(給料)も減ります。所得が減ると、ますますお金を使うことが出来なくなります。社会全体の経済が縮小します。これを不況といいます。

ストックで議論していたのに、最後にフローでの議論に切り替わっていることに注意して欲しい。

特殊な状況でもない限り、消費せずに貯蓄を増やすと投資が増えることになる。銀行が貯蓄を運用してくれるからだ。ミクロ的には投資∝消費=需要=売上と考えやすいが、マクロ的には消費+投資=需要=売上になるので、消費が減ると投資が増える事になる。つまり、合成の誤診がある。投資が増えると国内総生産が増えるので、われわれの所得(給料)も上がっていく。すると、結局は消費も増えるであろう*3

3. そもそも論をしよう ─ 民間の投資や消費は内的に決定される

議論のちゃぶ台を返すようだが、一般に最近のマクロ経済学的には民間投資や民間消費は内的に決定される。家計が14兆円分の預貯金を引き出し消費をしたと言うことは、それは可能だと言うことだ。貯金を無理やり使わせる方法もあるが、それは政府が増税と投資をするのと変わらない。反実仮想的な話は嫌いではないが、リアリティーにかける議論になっている。

*1瞬間的に売買や預貯金が行われるわけではなく、途中で現金が必要になると言う指摘もあるが、銀行は国債を担保に資金調達が可能だし、国債を中央銀行に売却する事もできる。

*2実際には企業が保有する在庫には限度があるので、在庫を増やそうとして投資意欲を増す。つまり資金需要が増して金利が高くなるはずだ。だから菅原氏の主張する金利上昇は誤りでは無いとは思うが、はストックで議論を始めているので上手く説明できていないように感じる。

*3収穫逓減するマクロの生産関数を仮定すると、投資が消費を増やすと言っても限界はあるわけだが、そういう議論には思えない。

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