インフレーションの議論に欠かせないのは、インフレ率の測定だ。卸売物価指数(PPI)や消費者物価指数(CPI)などの指標があるが、日銀はCPIをベースに色々と考えているようだ。
ところがこのCPIがインフレ率の上方バイアスが0.5~1%ぐらいあると主張する人々がいる。過剰にインフレを評価していると言うことだ。本当であろうか?
1. 消費パターンは変化し、財の品質は向上する
どういう事かと言うと、CPIは平均的な消費者の購入する財(消費バスケット)を考えて物価指数を計算するのだが、価格が変化したら購入する財も変わる(代替の弾力性)し、同じ財だと思っていてもPCやケータイのように品質が向上する(品質変化・新製品効果)こともある。
日本では5年ごとに改訂されるのだが、基準年からだんだんとバイアスが入ってくるわけだ。白塚(2000)での議論では、品質変化・新製品効果が大きいらしい。確かに目覚しい速度で家電製品は進化していく。
新製品はケータイやタブレットPCのような新しい消費財が漏れることで、品質変化は価格低下で高性能品を消費するようになるバイアスだ。ササシグレ → ササニシキ → コシヒカリと食べる米が変化したときに、不味くて安いササシグレと、美味しくて高いコシヒカリを同じ物として比較すると上方バイアスがあると言う事らしい。
2. 品質変化・新製品効果のマクロ的な重要性は不明
品質変化・新製品効果が、マクロ的なデフレやインフレを表すのかが良くわからない。ただ、5年ごとの改訂で代替効果のバイアスが大きくなっているのは分かるので、毎年消費バスケットを改訂するラスパイレス連鎖基準方式による消費者物価指数(連鎖CPI)を見るのが適切なのは確かなようだ。
追記(2013/01/12 21:15):ヘドニック・アプローチによる「品質変化・新製品効果」のコントロールを重視すべきだと言う指摘があるが、最終消費財にあてはめると過剰に効果を評価するかも知れない。例えばPCは、1996年と現在では100倍以上の演算能力の差がある。しかし、ワープロとして使う人にはそこまでの差は無いであろう。また、昔の高級車の性能の車が廉価に買えるようになる事が、大衆車を買う予算が減る事を意味するわけでもない。
3. 固定CPIと連鎖CPIの差はどの程度?
市橋・長谷川(2012)では、2005年基準と2010年基準のコアCPIを比較して2011年の時点で0.6ポイントぐらいの差がある事を示しつつ、連鎖CPIの有用性を議論している。ウェイト要因と価格指数要因に分けて分析しているが、固定CPIと連鎖CPIの乖離が最大で0.4ポイントぐらいと見て良いようだ。2011年は本来ならば2010年基準になるので、グラフの差が問題になる事は無い。
統計局が出している「平成22年基準消費者物価指数」と「ラスパイレス連鎖基準方式による消費者物価指数」の2012年の値を比較してみたい。
指標 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 |
---|---|---|---|---|---|---|
固定CPI | -0.1% | 0.1% | 0.2% | 0.2% | -0.1% | -0.2% |
連鎖CPI | -0.2% | 0.0% | 0.1% | 0.1% | -0.2% | -0.3% |
指標 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 |
---|---|---|---|---|---|
固定CPI | -0.3% | -0.3% | -0.1% | 0.0% | -0.1% |
連鎖CPI | -0.4% | -0.4% | -0.2% | -0.1% | -0.2% |
固定CPIに消費バスケットの変化に起因する0.1ポイント程度の上方バイアスがあるようだ。一部の論者が言うような、0.5~1ポイントのバイアスと言うのは、過剰に気にしすぎな気がする。
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