Woodford(2012)*1のP.61~P.63で公開市場操作のMM定理としてWallace(1981)*2が紹介されていた。
完全情報、完備契約で取引摩擦無しのときに資金調達方法と企業価値が無関係と言うMM理論と同様と説明している経済評論家がいるのだが、もう少し中身を見ておくべきであろう。何と何が無関係の事を表しているか理解していないと、知っているフリもできないからだ。
Wallace(1981)は動学的一般均衡モデルと言っても、生産関数の無い2期間OLGモデル*3で、一定量の債券がある世界になっている。代表的家計は、貯蓄手段として債券か現金を持つ事ができる。この経済では、中央銀行が債券を購入して、家計が持つ債券が減ったとしても、シニョリッジが減少して現金による蓄財が有利になるため、代表的家計の1期と2期の消費量や物価に影響を与えられない。
Woodford(2012)の説明だと、代表的家計をリスク選好度や収入の変化(昇給やリスク)のある異質な複数の家計に変えても、この定理は成立する事を示せる。また債券市場の規模も関係ない。現実に成立するかと言うと、公開市場操作で金利が下がることなどから成立はしていないが、中央銀行の貨幣性負債の残高*4を変化させ無い限りは、弱く成立している可能性を示唆している。
「中央銀行の貨幣性負債の残高」の意味が良く分からなかった*5のだが、金利を操作できない状態ではWallace(1981)が成立しうると言う事らしい。国債の安全プレミアムなどを考えると成立しないとか、実際にゼロ金利で観察される安全プレミアムの効果はゼロだとか、色々とディスカッションが続いているが、債券売買に損益が出ないゼロ金利状況下では十分に考慮すべきと言う事のようだ。
Wallace(1981)は僅か8ページの論文で、制約付最大化問題が解けて、数学的帰納法を微かにでも覚えていれば、容易に読むことができる。x(t+1)のxと(t+1)の間に余分な/が入っていたり、式(2)の効用関数uの添字の数字がc1とc2に関する偏微分を意味していて混乱するのだが、難易度が高いのはその程度だと思う。
*1Woodford, Michael (2012) "Methods of Policy Accommodation at the Interest-Rate Lower Bound," To be presented at the Jackson Hole Symposium, "The Changing Policy Landscape"
*2Wallace, Neil (1981) "A Modigliani-Miller Theorem for Open-Market Operations," American Economics Review, Vol.71, pp.267--274
*3毎期一定量の生産物が天からふってくる。
*4the outstanding volume of the monetary liabilities of the central bank
*5将来、中央銀行に利益か損失をもたらすオペレーションが必要であると言う意味であろう。
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