先月27日の安倍総理の全国一斉休校要請*1については、大きく(1)国民の警戒心を高めることによって新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大防止に寄与した派と、(2)要請時には有効性の低い施策であり、むしろ休校要請の解除によって人々の気が緩み感染が拡大する派の二つに分かれているのだが、一ヶ月を経過したので評価してみたい。過去60日間のデータを使った、SIRモデルに沿った基本再生産数R?の推定値を見てみよう。
SIRモデルはもっとも基本的な感染症の流行過程を定める微分方程式モデルであり、そこでの基本再生産数R?は、集団免疫の効果が無い場合の感染症の伝染力を示す指標だ。R?=3であれば、1人の感染者は治るまでに3人にうつすことになる。R?<1であれば感染症はすぐに消えてしまうが、R?>1であれば集団免疫を獲得するまで累積感染者数は増加していき、R?に応じて累積感染者が定まる。感染からの回復率は一定なので、R?の大小で事態の深刻さが分かる。
さて、推定方法は別エントリーを参照してもらうとして、推定結果は以上になる。2月27日の安倍総理の全国一斉休校要請だが、その後3月中頃までトレンド線の上を行く累計陽性者数の推移となっている。潜伏期間は約5日と言われているので、国民の警戒心を高めたのであれば、3月上旬にはトレンド線の下に向かうはずであった*2が、逆なので大きな効果は無かったと言える。この時期にCOVID-19の危険性を過小評価されるような報道は少なく、検査拒否などの混乱が解消された結果の可能性もあるが、拒否件数自体は1割程度と考えられているので、むしろ学校の一斉休校で安心感を与えてしまった可能性がある。
実効性が高い施策を専門家会議に諮問するべきだったし、人々の意識を変えたいと言うのであれば、行動経済学者なりにナッジの方法を聞くべきだった。幸い、3月中旬過ぎから、徐々にSIRモデルの予測値の下をいっているので、このような事態を回避できる希望はまだある。思ったよりも市中に蔓延している可能性が報道され、感染危険性の高い場所が周知されてきたのであろう。次の行動はもう少し上手くやって欲しい。後先細かいことを考えずにロックダウン宣言しそうな気もするが。支持者はそういうのが好きそうであるし。
追記(2020/04/15 00:49):2月27日から7日ぐらいまでの上昇トレンドの逓増を一時的に止めた可能性はあるが、10日しか経過していない8日ぐらいから止まっているので、一斉休校要請以前の報道や対策が機能した可能性の方が高い。
*1関連記事:安倍総理はなぜ全国の小中高の臨時休校を要請したのか?
*2増加が逓減していけば、凹関数のトレンド線が引かれる。
2 コメント:
対策の効果が検査陽性数に反映されるのには、新型コロナの場合2週間程度かかるとされていたと思います。
>> 河童象 さん
平均で潜伏5日間、重症化まで7日間で12日後と言う話だと思いますが、10日ぐらいがもっとも上ぶれしているので。
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