2020年3月9日月曜日

誰が感染者であるかを把握できる前提の感染症予防策は、コロナウイルスには機能しない

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社会学者の山口一男氏が、誰が感染者であるかをできるだけ正確に把握することで感染者を隔離し感染の伝播を防ぐために、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)検査はできる限り広く、少しでも感染の疑いのあるすべての人に行うべきと主張している*1のだが、誰が感染者であるかを把握できる前提の感染症予防策は機能しないことを指摘したい。

理由は簡単で、偽陰性があるので、漏れが出る。しかも、SARS-CoV-2の検査は偽陰性率が相当に高いようだ*2。水際防止を考えるのであれば、少しでも感染の疑いのあるすべての人を隔離するしかない。2003年のSARSのときは、そうやって封じ込めた*3。日本中に広まってしまったら、実際問題、ワクチンなどで根絶しないとお手上げである。戦後すぐまで結核菌の感染率は5割程度であった。もちろん、天然痘のように発病前には感染力が無いか低い場合や、AIDSのHIVのように、感染率が低くそうは広まらないウイルスであれば、検査結果に応じて隔離するのは有効な措置になるが、飛沫感染する感染症の隔離措置はそうは機能しない。そもそも病院に来ない人々もいる。

社会疫学(social epidemiology)が研究領域だった人に文句つけるのは気が重いのだが、頑張って軽症者まで検査をして隔離を試みた韓国は上手くいなかったわけでして。

*1RIETI - 新型コロナウイルスとEBPM(証拠に基づく政策作り)

*2隔離によって水際防止やウイルス根絶が狙う場合、網羅的な検査、低い偽陰性率が必要になる。雑な計算だが、再生産数を{1 - 検査率 + 検査率×偽陰性率}×再生産数に抑制できることになるが、基本再生産数4~7と言われるSARS-CoV-2を根絶にもっていく場合は、全員検査で偽陰性率が14%以下でないといけないが、実際は30%~70%の偽陰性率と言われる。中国などで開発された抗体検査キットでは偽陰性を10%~20%に抑制できるようだが、既に感染者が市中を歩いており感染可能性のある人間を網羅的に検査するのが難しい。武漢市のように市民全員に経済活動のほとんどやめてもらって、再生産数を抑制すればよいわけだが。

*3隔離対象者は、SARS患者と30分以上の接触があり、かつSARS患者の治療中にPPEを使用しなかった医療従事者、SARS患者をケアした家族、SARS患者と同じ建物の居住者、SARS患者を訪問した人、SARS患者と同じ職場であった人、SARS患者の同級生や教師、SARS患者と同じ公共交通機関の利用者とし、接触後14日間は隔離した」そうだ。

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