ビットコイン好きの個人投資家らしきサトウヒロシ氏が、ゆっくりとみんながコロナに罹ることによって感染者数のピークを抑えるピークカット戦略が最終的に破綻し、より多くのコストを払うことになると、ネット界隈の人々を煽っている*1のだが、出だしから変なことになっている。デマを流して楽しむにしても、もっと上手くやって欲しい。
感染者数が山なりになるグラフは、SIRモデルかその派生によって計算されているわけだが、まず、ピークが急でも緩やかでも集団免疫を獲得することになる。「集団免疫を獲得しよう」は戦略であり得ない。次に、ピークカットをするためには、基本再生産数(R₀)を引き下げる必要があるのだが、これによって感染者の延べ人数も延べ死亡者数も減ることになるから、「ピークカットでは感染者数が減るのではなく、後ろにずれるだけだ」と言うことは無い。
実際に数値演算をして感覚を掴んでみよう。公開されているRのコード*2をそのまま使うが、パラメーターと初期値については以下のように設定した。
- 1. ある時点で感染者が回復する確率γ
- 平均して2週間ほどで回復するらしいので、最適化アルゴリズムで を満たすγを計算した。
- 2. ある時点で感染者が免疫の無い人々にうつす確率β
- 基本再生産数(R₀)とγから、0時点の感染者が感染させる人数の期待値がR₀に等しいとしてから計算した。集団が免疫を獲得する効果は無視している。
- 3. 初期感染者比率I,初期免疫保持者率R
- 初期値は重症化が3割ぐらいで、入院387名、退院者80名(3月8日現在)なので、(387-80)/0.3=1023人を感染者とし、80人を免疫保持者とし、総人口を1億2000万人として比率を出した。
後は借りてきたコードで計算するだけである。R₀が4ぐらいだと、国民の大部分が感染を経験し、重症者や死者も多くなる。感染者数ピーク時は国民の4割が感染している。
基本再生産数R₀が1.4ぐらいだと、感染を経験するのが国民の半数になる。感染者数ピークもだいぶなだらになる。しかし、本格的に感染が進むのが200日後から500日後で、下手にオリンピックを延期すると、開催直前に流行期になる。
基本再生産数R₀が1.1ぐらいだと、感染を経験しない国民の方が多くなる。感染者数ピークもよくわからない。インフルエンザも流行年は1割ぐらいは感染するようなので、さっぱり病気が流行している実感はわかないであろう。しかも3年後。
私の計算が間違っているかも知れないし、このモデル、死人の発生、病院の混雑、気候の変化などで感染パターンが変化することを考えていないので、具体的な数字の信憑性は分からないが、ピークカット戦略がもたらす大体の方向性はつかめたと思う。サトウヒロシさんの議論、デタラメだから。
「ピークカット論を汲みせず、いますぐ封じ込めをしよう」と言いたいのだと思うが、もう日本各地で感染者が発生しており水際対策のフェーズは過ぎ去っているし、この手の飛沫感染する感染症をワクチンなしに根絶できたことはない。中国のように感染者とその周辺の人間を収容所もどきの施設にどんどん隔離すれば出来るかも知れないが、それで武漢市あたりの死亡率が跳ね上がった面もありそうだ。日本で同様の措置は難しい。手洗いの徹底などでR₀が1未満になってくれれば、有難いのだが。
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