2020年3月30日月曜日

ラディカル・フェミニズムがどういう運動だったかが分かる『女のからだ』

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ネット界隈では、定期的にフェミニストが表現物に難癖をつけることで論争が盛り上がるのだが、色々と無理筋な主張をするので表現物の擁護派は難癖をつけるフェミニストに疑念を持つに至っている*1。近所のおばさんと同じヒステリックな保守派と言うものや、オレの考えた本来のフェミニスト—対話によって男女平等を目指し、女性の選択肢を増やすことを目指す人々—と異なる偽者と言うものなど色々あるが、歴史的にどういう運動がフェミニズムと呼ばれているのか把握しているのか危ぶまれる*2。特に、ラディカル・フェミニズムへの理解が乏しい。

抽象的な言葉だけで、物事を理解するのは難しい。やはり実際にフェミニストと呼ばれる人々が何に取り組んできたのか知るべきだ。『女のからだ――フェミニズム以後』は、ラディカル・フェミニズムが女性の健康問題*3や妊娠中絶など生殖に関わる自己決定権に関する運動をどう展開してきたのかを俯瞰する本で*4、第二波フェミニズムの半分を理解するのに良い内容になっている。

本題に入る前に「はじめに」で、リベラル・フェミニズムとラディカル・フェミニズムの相違点などをざっと説明してくれるので、フェミニズムに対して知識がほとんど無い人にも向いている。性差ミニマリズムだけがフェミニズムではない。本題の女性の健康問題は、具体的な話が淡々と記述されている。アメリカで妊娠中絶の権利の獲得のために平和的な対話に限らず抗議活動が行われていたこと、妊娠中絶が合法になる前に違法な妊娠中絶を実施するサービスが提供されていたこと、アメリカからはじまり全世界で女性の身体や健康に関して積極的な啓蒙活動が実施されていたこと*5、避妊具や経口避妊薬、詐欺医療など様々な女性の健康問題が発生してある種の医療不信があること、日本、そして妊娠中絶の権利の獲得後のアメリカでは、妊娠中絶の権利を守るために保守派と対立していること、日本では優性保護法の改正を巡って障害者団体と駆け引きがあったこと、フェミニスト間の意見対立は昔からあり*6、ベビーカー締め出し反対運動(pp.132—135)のような身近な問題にも取り組んでいたこと、生殖技術の発展によってさらに意見が分かれるトピックが増えていることなどを知ることにより、フェミニズムが何であるかが分かると思う。

本書が説明したいことではないが、フェミニズムは女性の権利拡大・地位向上運動の総称で、意見対立があると歩みを分かつのがフェミニストであり、また、生殖に関わる自己決定権と言う切実な問題に取り組んでいたことが良く分かる。家庭内の男女の序列まで気にするラディカル・フェミニストの一部にとってはポルノなどの表現物も重要ではあるが*7、それだけがフェミニズムではない。誰かフェミニストが一人文句をつければ、今後の運動を考えて連帯を示すために賛同したりするのかも知れないが。

*1ジェンダー社会学者には不信感を持たざるを得ない(関連記事:ジェンダー論をやっている社会学者は“被害者”)。

*2関連記事:色々と思い違いをしているだけで、ツイフェミもフェミニストには変わらない

*3女性の身体の構造に詳しくない男性は『男が知りたい女のからだ』のような本で、中学校の保健・体育の復習をするとよい(関連記事:産婦人科医が男に知って欲しい女のからだ

*4pp.8–9の説明を読んだ感じではだが、リベラル・フェミニズムでは強い問題関心にならなかったようだ。

*5本書のタイトルは、フェミニストの手によるベストセラー啓蒙書"Our Bodies, Ourselves"の邦訳タイトルから取ったもののようだ。

*6例えば、生理休暇の是非で意見が分かれる(pp.138–141)。女性労働者に特別な権利を与えるのではなく、男性労働者を含めて労働環境の改善をすべきと言う反対がある。なお、ミスコン反対運動の是非が代表になると思うが、本書ではNYWRが分裂した理由として言及されていない(pp.23–24)。

*7関連記事:エロ可愛い格好は女性に有害

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