2015年12月29日火曜日

「慰安婦問題妥結」は韓国世論の試金石

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従軍慰安婦問題に関して、日韓政府が外交的な合意に至った*1。「最終的かつ不可逆的な解決」と言いつつ、韓国側の要請で合意文書の作成は見送られており*2、自信の無さが浮き彫りになっている。韓国メディアは好意的に報道しているが、野党や挺対協ら市民グループは反発をしており*3、韓国世論がどう動くかが気になるところだ。1993年の河野談話は挺対協らの反発により、韓国では受け入れられなかった。今回の合意は、20年経過して挺対協の影響力が落ちていないか確認する試金石になる。

2015年12月25日金曜日

橘玲の経済学の理解のどこがヤバいのか

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作家の橘玲氏が『マクロ経済学のどこがヤバいのか』と言うエントリーで、経済学について語っている。合理的経済人と限界費用逓増法則を批判しているのだが、色々と変になっているので指摘したい。今は経済学で言う合理性がどういうものなのか、限界費用逓増法則が成立しない、つまり規模経済性があるときにどういう世界になるかミクロ経済学のテキストに良く説明が書いてあると思うのだが。

2015年12月22日火曜日

選択的夫婦別姓制度に反対する人は、説得的な反対理由を挙げる必要があるのか?

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最高裁判所が夫婦同氏制を合憲としてから、にわかに選択的夫婦別姓制度の是非について議論が盛り上がっているようだ。違憲でないからと言って、夫婦同氏制が望ましいと決まったわけではないから、議論が終結したわけではない。むしろ、議論はこれからであろう。非嫡出子の相続分差別規定は、何十年とかけて最高裁の判断が変わった。

さて、選択的夫婦別姓制度が姓を同じにするときの不利益がどちらか片方によることが不公平であると明確に主張できる一方で、夫婦同氏制を維持する理由を明確に主張する人はほとんどいないようだ。「家族の一体感を損なう」と言われても、姓が異なると失われる一体感とは何なのか、実の所は明確ではない*1

2015年12月17日木曜日

自分で考えすぎた人の話――カント哲学入門

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哲学の世界には分野外の人にも知名度はとても高いが、その主張がほとんど知られていない偉人は多い。その代表を選ぶとしたら、やはりカントであろう。功利主義であればその主張の断片を、それが誤解されたものでも耳に挟むこともあるわけだが、カントを濫用する人は少ないと思う。それが帰結主義と対になる義務論の原典みたいなものであってもだ。難しすぎて誤解もできない。そんな途方に暮れた一般人のための、カント概説書が出ていた。『自分で考える勇気――カント哲学入門』だ。

2015年12月10日木曜日

出だしからコケている気がするリベラル懇話会

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リベラル政党のための、リベラル政策を検討する、リベラル懇話会なるものが設立された(財経新聞)。出だしから、物凄く残念な感じが漂っている。マーケティング的にも、民主党の諮問機関としての実態から考えて、表に出てこない方が良い気がするのだが、コンセプトが一つの倫理観に依存してしまっているし、それへの理解にも混乱が見られる。その道の人が、検討した上で書いたとは思えないのだが。

経済学における合理性が誤解されそうな「実践行動経済学」

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ネット界隈で良く言及されている(気がする)「実践行動経済学」を読んでみたのだが、何か経済学に強い誤解を抱きそうな本だった。駄目な本と言うわけではなく事例が豊富で面白いのだが、合理的な経済人(ホモ・エコノミクス)に対する強い誤解を引き起こしそうな文が溢れていた。本書で規定される経済人は、無限の計算能力と神仏と同じ認知能力を持つことになっている。

2015年12月6日日曜日

東浩紀のゲンロンは日本から消滅すべき

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産経毎日新聞で批評家・作家の東浩紀氏と社会学者の開沼博氏の『脱「福島論」往復書簡』が掲載されていた。開沼氏は、福島県外の非当事者からの原発災害に関する意見に「ありがた迷惑」なものが多くあり、無自覚にそれを行わないようにして欲しいと訴えている*1のだが、それに東氏は『発言の権利がある人とない人を、誰かに「迷惑」か否かといった基準で分割する、乱暴な発想』と批判している。東氏は、開沼氏に「外から乗り込んできて福島を脱原発運動の象徴、神聖な場所にしようとする」のが迷惑だと宣言されて、「福島第一原発観光地化計画」が否定されたように感じて傷ついているようだ。計画が被災者のためになるか、迷惑になっても実行する価値があることを主張すれば良いだけ*2なのだが、発言権が取り上げられたように感じているらしい。

2015年11月30日月曜日

日本の反知性主義者

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安倍総理を批判する文筆家が使っているだけな気もするが、「反知性主義」と言う言葉が流行っているそうだ*1。一見して分かったような気になれる単語だが、その原典に近い意味は広く知られていない。翻訳家の山形浩生氏の説明によると、『浮き世離れしたなまっちろいエリートの机上の空論より、現実に根ざした一般庶民の身体感覚に根ざす直観こそが貴いという考え』と言うものだそうだ*2。さて、日本ではどのような人々が反知性主義者になるのであろうか。

2015年11月20日金曜日

障害を持つ胎児を中絶することは倫理的であり得る

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茨城県の県総合教育会議で、日動画廊副社長・長谷川智恵子氏が出生前診断によって、障害のある子どもの出産を防げるものなら防いだ方がいいと発言した*1ことに対して各所から批判が上がり、長谷川氏は謝罪に追い込まれた*2。しかし、氏の真意はよく認識されていないようだ。ナチス・ドイツにおける優生政策と結びつける人が見られるのだが、どちらかと言うと出生前診断の普及促進によって親に選択肢を与えようと言う話になっており、大きく曲解されているように思える。そして不道徳な発言のように非難されているが、良く知られた倫理から擁護することも不可能ではない。

2015年11月19日木曜日

従軍慰安婦像の撤去は日韓外交を合意へ誘うと言えるのか?

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日韓外交をゲームで捉えると不謹慎だと言う人もいるらしいのだが、ゲーム理論のような構造的な視点から見てみるとすっきり説明できる事もある。それが現実を反映しているかは定かでは無いのだが、交渉の要素が本当に鍵になるのか、どういう原理で鍵になるのかが明確になるからだ。先日の日韓首脳会談を受けて、朴政権が韓国の日本大使館前の従軍慰安婦像を撤去することが、従軍慰安婦問題の解決につながると言う主張が見られるのだが、その妥当性について考えてみたい。

2015年11月17日火曜日

これから「殺人」の話をしよう

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あなたは何を元に善悪の判断を下しているのであろうか。信条を直感的に参照している人が多いと思うが、その信条が適切なものか考えたことの無い人は多いであろう。左派やリベラルを自認する人々には、特にそういう人々が多いように思う。

「直感的な価値規範の問題なので論理的議論は難しい」と開き直る人もいるのだが、中心となる倫理から、具体的な行為における規範を説明するぐらいはして欲しい所だ。実際に、倫理学者の間では有名な功利主義者のピーター・シンガーの名著『実践の倫理』を読んでみると、ある程度は論理的に説明されることが分かる。

2015年11月4日水曜日

消費税率を引き上げても、税収は減らなかった

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理屈は示されていないのだが、ネット界隈には消費増税をしたら税収が減ると言い続けている人々がいた*1。増税をしたら税収が減るのであれば、税率ゼロの無税国家が税収最大になるので意味不明と思わなくも無いのだが、実際に2014年4月に増税がされたわけなので、その結果と主張が合致するのかが気になる所だ。果たして、2014年度も2015年度も税収は増加する模様だ。増税による税収減少を主張していた人々は、今、何を思っているのであろうか?

2015年10月29日木曜日

「多数決を疑う」を疑う

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世の中、多数決など投票で物事を決めることは多いが、様々な投票がどういう癖を持つのか、詳しく考えた事のある人は少ないと思う。しかし、経済学の中には社会選択論と言う分野があり、そういう事を延々と考えている研究者がいる。ネット界隈の経済学徒の間で話題の新書、慶應大学の坂井豊貴氏の「多数決を疑う」は、一般向けに社会選択論の知見を紹介しつつ、さりげなく著者の政治観を世に問う意欲作で、民主主義云々と語りたい人にはお勧めできる一冊である。しかし、疑って読むべきところも多少あった。

2015年10月26日月曜日

ジャンボ・ジェットを操縦する

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Boeing 747-400型機の離陸から着陸までの運用を説明すると言う本『ジャンボ・ジェットを操縦する』の評判が良かったので、拝読した。少し古い本で、もう日本では飛んでいない機材の紹介になっているのが残念だが、操縦方法だけではなく、業務の流れや管制との交信、機材の機能や構造などが広く紹介されており、旅客機に関する豆知識がまとめて手に入る。

2015年10月25日日曜日

インフレ目標政策は、経営者のインフレ期待を固定しない

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日銀がインフレ目標政策を導入したのは2013年と最近のことだが、ニュージーランド中央銀行(RBNZ)は1988年に導入し、もう25年もインフレ目標政策を行っている。しかも、RBNZは目標未達だと中央銀行総裁は財務大臣から辞任が求められる事もあり、日銀のものよりコミットメントが大きい。こう書くと、さぞかし国民にインフレ目標政策が周知されているかのように思うが、実際はまったくそんな事は無いそうだ。

2015年10月24日土曜日

エコノミストにはC++ではなくC言語があっている

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速度が出るからエコノミストには、C++があっていると言うITworldの記事が流れてきた。経済学でもカリブレーションと言って、数値演算で理論モデルの特性を明らかにする手法があり、それを使う人々は計算力の不足に悩まされている。速ければ速いに越した事は無いので、スクリプト言語と比較してC++が良いと言う話だ。そうですかと聞き流してしまいそうなのだが、記事の元になった分析が短絡的で、C++と言うよりC言語があっているように思える。

2015年10月19日月曜日

税制に一家言持ちたい左派は読んでおくべき「税と正義」

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ネット界隈には左翼思想の人々は多く、再分配を強化するように税制を変えようと主張している。また、再分配的な政策を否定する“新自由主義者”を熱心に批判している。しかし、その議論は往々にして直感に基づく素朴なもので、実証的な根拠に欠くだけではなく、倫理的にも脆弱なものが少なくない。しかし、きっちりした議論を展開したくても、自分で考えると辻褄が合わなくなってくる。だから、他人の議論を借りてくるのがお手軽だ。全部がそうではないが、そういう用途で『税と正義』は参考にできる本になっているので、左派の皆様にお勧めしたい。

2015年10月9日金曜日

毎日新聞を擁護して、産経新聞を批判する前に

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統計学を学ぼう。前のエントリーで批判しておいたブログ主から『産経と毎日の「世論調査」のバトルをめぐる不可解なブログ記事』で疑問が出されていた。統計学の勉強をしたことが無いせいか、擁護のためだけの無理な作文になっていて残念な感じになっている。自分が統計について議論してきた事さえ、認識できていないようだ。また、産経新聞の酒井氏の記述にも追加で批判しているが、こちらは厳密な計算をしていないので、適当な批判とは言えない。実際に区間推定値を二つ比較してみたのは評価できるのだが。

2015年10月4日日曜日

産経世論調査を笑う前に

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統計学を学ぼう。ask.fmで『産経世論調査を巡る毎日との批判合戦で産経が「自爆」(笑)』と言うエントリーを紹介されたのだが、毎日新聞・平田崇浩氏が恐らく「意義」を「有意性」と書き間違えて産経新聞の記事への批判を行い、産経新聞・酒井充氏もポイントの掴みづらい反論を行い、そしてブログ主のkojitaken氏が、統計的な有意性が何かを理解しないまま、産経新聞をアホと笑っている。

シリア情勢を理解するために読んでおくべき本

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「アラブの春」から混迷を続けているシリア情勢だが、その見通しの悪さに困惑している人は多いと思う。政府軍と反政府軍による内戦であれば分かりやすいのだが、アサド政権、ムスリム同胞団、シリア自由軍、ヌスラ戦線(アル・カイダ)、イスラム国(ISIL)、ヒズボラと参加勢力が多く、トルコ、サウジアラビア、カタール、イスラエルと言った中東の国々の他、米国やロシアが関わってくるからだ。かなり複雑なゲームが展開されている。しかし、そもそもアサド政権がどういうモノなのか良く知らない。そういう事で『シリア アサド政権の40年史』を拝読してみた。著者の国枝昌樹氏は外交官で、シリア大使を勤めた人だ。

2015年9月27日日曜日

国際線の航空管制の仕組みが分かる本

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先日読んだ「航空管制の科学」の続きになる「新しい航空管制の科学」を拝読した。増補版だと思っていたのだが、続きになっている。旧版は国内線とレガシーシステムを中心に置いたものであったが、新版は国際線と人工衛星を利用した新しい航空管制を中心に置いたものになっていた。無印の方で人工衛星を利用した航空管制を紹介できなかったのが心残りのように書いてあったのだが、それを補完するものなのであろう。科学と銘打っているものの、航空管制業務の紹介になっているのは、新旧変わらないが。

2015年9月22日火曜日

産経FNN合同世論調査の怪しいところ

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朝日新聞のように調査方法を明示*1していないのではっきりしないのだが、産経FNN合同世論調査で用いているRDD*2について、不適切な統計処理が行われているのではないかと言う憶測が出ている。

日本では2001年頃から計算機によって乱数生成した電話番号を用いた電話調査、つまりRDDを導入するメディアが増えており、産経FNN合同世論調査でも用いている。このRDD、低コストでリアルタイム性があるのだが、ある種のバイアスが入りやすい。ただし、その影響を抑えるべく処理されている。

2015年9月16日水曜日

韓国民族のエスニシティが形成されたのは90年代初頭

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神戸大学の木村幹氏が『慰安婦問題 なぜ冷戦後に火が付いたのか』で、従軍慰安婦問題が日韓で拗れている原因を説明している。問題を日韓請求権協定の解釈として捉え、植民地支配の清算に関わる基本的な法的な枠組みの一角であり、協定にかねてから不満を抱いている韓国人が、日韓のパワーバランスの変化を背景に、その解釈を改訂したがっていると説明している。90年代に突然、問題が大きくなったので韓国人の民族性は関係ないそうだ。政治学的にはそのような結論が自然なのであろうが、民族性をどう定義するかの問題がある*1にしろ、関係ないと言い切るのは問題に思う。

2015年9月11日金曜日

楕円関数を知ったかぶりするためのタダ本

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数学徒でもないのだが、数学者の志村五郎氏が勉強しておけと繰り返して強調している*1楕円函数を知ったかぶりするために、竹内端三『楕圓函数論』を拝読してみた。近代デジタルライブラリーで画像が公開されているし、綺麗にTeX起こしをしてPDF化されたものもあり、本代もかからない。志村氏のほかにもTwitter界隈の数学教員もよく推奨している名著である。なお志村氏曰く楕円函数は大して発展していないので、内容も古くは無いようだ。

2015年9月9日水曜日

新型軽減税率もしくは消費税還付制度の問題

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各方面から軽減税率が反対される中、財務省が“新たな方式の軽減税率”を提案し(NHK)、自民党の税制調査会も承認したようだ(NHK)。早くも公明党が実は軽減税率ではないと気づいたようだが(読売新聞)、特定品目、つまり外食サービスを含む食料品を対象にした消費税還付制度になっている。払った消費税のうち2%分を一人年額4000円を上限に還付されるそうだ。ある点を除けばそう悪い案ではない。ある点が致命傷な気がするが。

2015年9月3日木曜日

世論調査とは何だろうか ─ 斜めに見るとバイアスに悩まされるもの

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政治談議が大好きなおっさんはこの世に多いが、声が大きい人の話が多数派の意見とは限らない。彼らが信頼おけないとして、自分の感性が世間の感性と思い込めるほど能天気でもない。やはり世間の皆様が社会や政治にどう言う見解を持っているのか、知りたいわけだ。そこで世論調査に頼ることになるわけだが、意外に世論調査がどういうものか分かっていない人は多い。そういう人に向けた本を、NHKで世論調査に携わってきた岩本裕氏が書いている。『世論調査とは何だろうか』は、ある部分の記述を除けば、全般的にオススメできる良書だ。

2015年9月1日火曜日

ある藁人形論法的な三角関数の教え方批判について

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鹿児島県知事の発言でにわかに人気となった三角関数だが、「学校の三角関数は教え方が悪い」と言うエントリーが目に付いた。『サインカーブを描いて、円と対応させて、「sinの位相をずらしたものがcosです」って感じで教える』とある。本当であればよほどひどい数学の先生に教わったようだ。しかし大半の学校では、三角関数の定義はそう教えていないし、定義だけを教えているわけでも無い。藁人形論法になっていないか『高等学校学習指導要領解説』で主張を検討してみよう。

2015年8月31日月曜日

あるマルクス経済学者のプロパガンダ(21) ─ リバタリアンこそが正しい?

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マルクス経済学者の松尾匡氏の連載「リスク・責任・決定、そして自由!」の最終回「新観念創造者としての自由と責任――突然変異と交配、そして淘汰」を拝読した。マルクスの唯物史観を説明するために、生物進化論と言うか経済物理学なモデリングが説明されている。ライフゲームの応用のような感じだが、こういう議論があっても良いであろう。しかしモデルの詰めが甘いので、モデルが結論をサポートしているように思えない。むしろリバタリアンこそが正しいと言った結論にすら読める。

2015年8月29日土曜日

あるマルクス経済学者のプロパガンダ(20) ─ 連載を通じて違和感があるところ

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マルクス経済学者の松尾匡氏の連載「リスク・責任・決定、そして自由!」の「最終回を読む前に――これまでのまとめ」を拝読した。今まで記載事実の正確性や、近経モデルの前提や解釈について突っ込んできたわけだが、今回は率直に感想を述べてみたい。近代経済学などの用語やモデルを摘まみ食いしつつ言葉をこねくり回しているだけで、まともに経済学の素養がある人を説得しようとする意欲に欠けている。プロパガンダとレッテルを貼っておいて言うのがはばかれるのだが、世間に誤解を生みそうなので専門用語やモデルをもっと丁寧に慎重に扱って欲しい。

中高の教育で( )の子に(  )、(  )、(  )を教えて何になるのか

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「高校教育で女の子にsin、cos、tanを教えて何になるのか」と言われたら、中学数学がぬるいと言う意味に捉える国語力の私だが、世間の人はそうは考えないようだ。この発言をした鹿児島県知事は世間から批判され、発言を撤回した(朝日新聞)。

SNSで観察した限り、二つの点が問題にされていた。一つは、男女別教育を前提としており女性蔑視が見られる点、一つは、三角関数の重要性を認識していない点だ。これらの批判は妥当だと思うが、知事のような発想をする人は少なくない。教育内容の正当化が、十分に行われていないからだ。

2015年8月19日水曜日

あるマルクス経済学者のプロパガンダ(19)

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マルクス経済学者の松尾匡氏の連載『リスク・責任・決定、そして自由!』は、今まで実証的な議論が展開されて来た。近年の日本では流動的人間関係の社会システムが指向される一方で、固定的人間関係に適応した倫理を強化しようとしてきたが、これが悪い結果をもたらすと主張している。この連載における倫理は実践される社会ルールであって、実証的なモノだと言うことが分かる。ロールズの議論も『「自分の身にも将来降り掛かってきかねない」というリアリティ』が失われて力を失ったと、実証的に退けている。

2015年8月18日火曜日

銃・病原菌・鉄と言うより、農牧業の発生と波及、その影響

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銃・病原菌・鉄』はSNS上でよく言及される信奉者が多い、歴史学もしくは文化人類学の名著で、世界の文明の発達の違いを説明した本だ。内容はエピローグを読めば分かるのだが、大陸ごとの自然環境が大きく影響したと主張されている*1

近世以降の征服者と被征服者を分けたものは、鉄器や銃や文字などの技術の差と、病原菌への免疫力の差であった。少数のスペイン人が南米を征服できたのは、軍事技術の差は勿論のこと、持ち込んだ感染症が現地社会を壊滅させたことが大きな理由である。

あるマルクス経済学者のプロパガンダ(17)(18)

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放置していたのだが、マルクス経済学者の松尾匡氏の連載『「生身の個人にとっての自由」の潮流の中のマルクス』『マルクスによる自由論の「美しい」解決』を今更、拝読してみた。マルクス経済学を学んだ事も無いし、マルクス哲学を位置づけられるほど哲学を学んでいるわけでも無いから、未知の世界に突入していて批評不能になっている。「疎外」や「物象化」と言った単語の簡単な説明になっているから、マルクス経済学の雰囲気の紹介になっている事は分かるのだが。今まで見てきたので感想だけを書いておきたい。

2015年7月29日水曜日

中国脅威論を言い出した安倍総理は新安保法案を理解していない

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現在参議院で審議されている安全保障法制だが、主唱者の安倍総理が法案を良く理解していない可能性が高まってきた。7月28日に中国脅威論を持ち出してきた*1のだが、それが問題となっている集団安全保障の部分とはほとんど関係が無いように思えるからだ。この法案では南シナ海で中国に対抗する術が無い。それどころか東シナ海での動きにも、具体的な対応は書かれておらず、実際のところ無力だ。安倍総理は、ネット上に多数いる法案を読みもせず対中国だと言っている人に騙されてしまっていないであろうか。

朝日新聞の憲法学者へのアンケート結果にある“現在の”自衛隊の存在の是非

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新安保法案に関してテレビ朝日(報道ステーション)のアンケート結果が話題だったせいか、朝日新聞でも憲法学者へアンケートを行い結果を公表している。多数が新安保法案に憲法違反にあたるとしている所は同じだが、「質問4 現在の自衛隊の存在は憲法違反にあたると考えますか」の結果から自衛隊も違憲だと連呼している人がいる*1のだが、このアンケート、そのまま信じるべきかは疑問があるので理由を列挙しておきたい。

2015年7月23日木曜日

空は自由に飛ばさせてもらえない

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日常生活では国土交通省や航空会社が上手く運行してくれているので気にする必要は無いのだが、何かと話題になる事も多いのが空路だ。中国風防空識別圏*1が話題になったこともあるし、パイロットと管制がやり取りする英語が問題になっていたり*2、ケネディ国際空港で管制官が二人の子供に航空機への指示をさせていて問題になった*3りするし、軍事基地の騒音問題で離着陸の経路に不満が持たれていたりする。広島空港のアシアナ機着陸失敗事故もあった。こういう問題で知ったかぶりをするには、航空管制がどうなっているのか知らなければいけない。

2015年7月8日水曜日

物理学にそんなに興味が無い人向けの素粒子の本

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難しい科学と言えば物理だ。高校物理の範囲を超える世界になってくると、カケラも内容を知らない人は多いと思う。その中でも素粒子物理学と言うと、お金のかかる巨大な装置で何かしているぐらいの印象しかない人が多いと思う。ノーベル賞があるため、定期的に話題になるわけだが、いつも人間ドラマにされて研究内容にしっかり触れられることは少ない。しかし、こういう現状に嫌気がさしていて、ちょっとは詳しく知りたいと思った人に、おあつらえむきの本はある。「強い力と弱い力」だ。

2015年7月6日月曜日

徴用は明らかに強制労働

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世界遺産登録を巡って、日本政府が第二次世界大戦中の朝鮮人の強制労働を認めたと話題になっているが、岸田外相のコメントを含めてかなり冷静さを欠いている。徴用は赤紙のかわりに白紙が届く、原則拒否不可能な強制だ。朝鮮人徴用工の存在は認めているのだから、日本政府の見解は従来と何ら変わらない。

2015年6月28日日曜日

物理学にそんなに興味が無い人向けの重力の本

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物理法則から逃れられる人間はいないわけだが、物理学をせっせと勉強するほど興味が無い人は多いと思う。物理学は実証に基づき高度に理論化されたハード・サイエンスだし、学習コストが低いわけでは無いからだ。特に一般相対性理論や量子理論になってくると、一見さんお断り感が強い。数学の教科書でロバチェフスキー空間やローレンツ群や分数変換群をちょっと勉強した人はそこそこいると思う*1が、シュヴァルツシルト半径を計算してみた人はごく僅かであろう。

2015年6月27日土曜日

消費税率を引き上げても、自殺率は上がらなかった

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気づくと2015年5月の自殺者数の統計が出ていて、前年比1.8%減の2217人だった。1月から5ヶ月連続で昨年比で減少している*1。自営業者の消費税納付時期になる翌年3月と5月に自殺者数が急増すると強く主張していた人もいたのだが*2、3月も1.5%減であり、その傾向も見られない。2014年全体は6.8%減となっており、消費税率引き上げ後に自殺が増えた形跡はない。自殺増加を強く主張していた人は、今、何を思っているのであろうか?

2015年6月24日水曜日

アニメ好きのための教養本「頭の中は最強の実験室」

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思考実験と呼ばれる哲学的な議論がある。極端な状況を考えることで学説などの論理的な整合性を評価する行為で、有名なものはその名前が広く知られており、色々な文脈で言及され一般化している。アニメや漫画のモチーフになっていることも多い*1

しかし、元々の話がどういうものか、把握できていない事も多いと思う。数学や物理などを学ばないと出てこない話も多いし、その数も少なくないからであろう。語感だけで思考実験を把握したつもりになって、その本来の意義が分からなくなっている無教養な人も多い。

2015年6月17日水曜日

安保法案に関して後釣り宣言をしないためのアンチョコ

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大多数の憲法学者が国会で審議されている安全保障法制は違憲と指摘していることに関して、経済評論家の上念司氏が要点を得ない主張を行い炎上し、さらに後釣り宣言を行って人気だ(togetter)。必要なのに違憲なのが問題ならば、憲法改正を主張すれば良いのだが。どうして違憲になってしまうのか分からないので、憲法学者を闇雲に批判をしてしまったのであろう。SNSで上念氏のようにならないために、アンチョコを用意してみた。

2015年6月11日木曜日

内閣法制局を従わせた安倍内閣が裸の王様になっていた件

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国会で自民党推薦の参考人である長谷部恭男早稲田大大学院教授が、安全保障関連法案を違憲だと指摘したことで、動揺が広がっている。他の憲法学者も概ね違憲であると見ているようで、立法をしても何かの拍子に裁判所が違憲判決を下す公算が高くなった。今までは内閣法制局が慎重に憲法解釈を行ってきたわけだが、第二次安倍政権になって内閣の解釈を押し通す体制にした結果が出つつあるようだ。

福島第一原発の災害・事故で、作業員に判断ミスがあったとして

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マクロ経済学者の斎藤誠氏が「震災復興の政治経済学:津波被災と原発危機の分離と交錯」で、「今般の原発事故は、あらかじめ想定された範囲と程度のもので、事故の拡大を防ぐための手立てもあらかじめ合意をされていた」(P.201)と主張している。兆候ベース(EOP)手順書*1に従って減圧注水を行っていたら、格納容器破損を起こさず交流電源の復旧まで原子炉の状態を保存できたと考えているようだ。しかし、もっと上手い対応があったにしろ、それが合意されていたと言うのは、言いすぎでは無いであろうか。少なくとも操作手順書には明記されていない。むしろ、操作手順書に無いことに踏み切れなかったので、上手くやれなかったように思える。

2015年5月26日火曜日

形式的にあかん歴史学関係16団体の声明

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昨年末にも同様の声明が出されていたので注目度が低いようだが、歴史学の学会16団体から『「慰安婦」問題に関する日本の歴史学会・歴史教育者団体の声明』が出されていた。しかし、形式的に問題がある行動になっている。どうも、声明文に関して署名などを集めなかった学会執行部の判断らしい。その結果、日本の大多数の歴史学者の見解なのか分からないことになっている。また、学者は複数の学会に所属しているので、参加人数が6,900人と言いつつ同一人物が何度もカウントされており、計算上もおかしい。こういう場合は、代表者名の個人見解として声明を出すのが妥当だと思うのだが、なぜ学会の総意のように見せかけたのであろうか。

社会福祉の維持のための増税の是非も議論して欲しい『経済政策で人は死ぬか?』

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昨年ぐらいから話題の左翼やリベラルを標榜する人が良く読んでいる『経済政策で人は死ぬか?』をようやく拝読してみた。幾つかショートストーリーも挟まれるのだが、似たような悪い経済環境で異なる政策をとった二つの国を自然実験として統計比較する主体としたエビデンス・ベースの議論になっている。緊縮財政として特に公衆衛生や貧困対策などの社会福祉政策に関する歳出削減を強く批判している一方で、増税に関する議論がほとんど無いのが気になった。また、自然実験とされる比較が、必ずしも似た状況の国同士を比較していない気がする*1

2015年5月16日土曜日

大阪都構想の挫折が示すもの

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大阪維新の会、ついては橋下大阪市長の主要政策である大阪都構想の住民投票が明日に迫っているが、新聞各社の世論調査では大きな支持を集めておらず*1、否決される見通しだ。明治末期からの特別市運動なのだが、地方自治の限界を露呈して終焉するようだ。考えてみれば当たり前で、大阪市民、堺市民に予算的に明確な利点が無い制度改正を、大阪市民、堺市民が支持する理由が無い。

権力闘争が良く分かる「韓国現代史」

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隣国とは言え、第二次世界大戦後の韓国現代史に興味がある人は少ないと思う。文化的に憧れる対象でも無いであろうし、先進国であっても、軍事的にも経済的にも大国では無いからだ。曽祖父が生まれた頃は日本の一部だったとは思えないぐらい親近感が無いと思う。私も、かなり以前に読んだ「韓国の族閥・軍閥・財閥」と言う本のイメージで見る程度だった。池氏のこの本、細部に日韓両国に対する否定的な予断を感じる所はあるものの、族閥~軍閥~財閥と上手く韓国政治の権力者の変遷を整理していて印象深い。しかし1997年の本なので、もう少し新しい知識が欲しい*1

2015年5月8日金曜日

アジア研究協会(AAS)定期年次大会で河野談話は抹消されました

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風聞では外務省が米国の学者相手に活動を行って反発を受けた結果らしいのだが、「日本の歴史家を支持する声明」と言うのが主に米国のアジア研究者から出ていた。英語と日本語で出ているので、恐らく日本政府と日本国民に向けたメッセージだと思うのだが、ここ二十年の日韓関係を全く踏まえていない文章になっているので、困惑してしまう。河野談話やアジア女性基金についての言及が無い。

2015年5月1日金曜日

従軍慰安婦問題で韓国人が騒いだ結果

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日米関係、日中関係が改善しており、韓国が孤立化している*1。米国は戦略的に米韓関係よりも日米関係を優先しているので、米国が歴史認識問題で日本に働きかける事は無い*2。こんな事を韓国メディアが報じている。さらに従軍慰安婦問題など歴史問題が障害になって韓国の外交的自由度はなくなっているので、他の外交問題からそれを切り離せと社説などで主張している*3。また、日本で反韓感情が高まっている事に注意している*4。新聞社がどの程度、世論などを代弁しているかは分からないが、徐々に結果は失敗と捉えられつつあるようだ。