2015年9月22日火曜日

産経FNN合同世論調査の怪しいところ

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朝日新聞のように調査方法を明示*1していないのではっきりしないのだが、産経FNN合同世論調査で用いているRDD*2について、不適切な統計処理が行われているのではないかと言う憶測が出ている。

日本では2001年頃から計算機によって乱数生成した電話番号を用いた電話調査、つまりRDDを導入するメディアが増えており、産経FNN合同世論調査でも用いている。このRDD、低コストでリアルタイム性があるのだが、ある種のバイアスが入りやすい。ただし、その影響を抑えるべく処理されている。

1. RDDの原データに入るバイアスとその除去のための調整

一世帯が保有する固定電話番号は一つである事がほとんどあるので、原データでは世帯人数が多い家計の有権者の意見を過小評価してしまう。そこで世帯人数を聞いてウェイト調整を行うのが、常識的な方法だ。

最初に電話に出た人に質問をすると、電話に出やすい主婦や老人に偏ると言う問題もある。最初に世帯構成を聞いて、乱数で世帯内の誰に質問をするかを選ぶことで、偏りを抑える。平日の昼間などに電話に出られない人のために、夜間を含めて何回もかけなおすことも行われる。

このような処理を行っても年齢構成などが偏る場合は、最終的に年齢別人口からも調整を行う。20代の意見が少ない場合は、20代のウェイトを大きく取るわけだ。よく、若者の意見が過小評価されていると言う批判がるが、それは原データにある問題であって、最終結果はそうとは限らない*3

2. 産経FNN合同世論調査は適切に行われているのか?

さて、話題の産経FNN合同世論調査に関する記事『FNN世論調査で分かった安保反対集会の実像 「一般市民による集会」というよりは…』を見てみよう。「安全保障関連法案に反対する集会に参加した経験がある人は3.4%」にとどまり、「集会への参加経験者の41.1%は共産支持者で、14.7%が社民、11.7%が民主、5.8%が生活支持層で、参加者の73.5%が4党の支持層」なので、「一般市民による」というよりも「特定政党の支持層による」集会だと書かれている。

産経とフジが「デモ参加者は一般市民でない」「特定政党支持者」との世論調査発表...そのデタラメと歪曲の手口を暴く - ネタりか』で、「独身の若者、とりわけ20代や30代に関しては、そもそも固定電話自体を自宅に引いていないことがほとんどだし、主婦層や高齢者と比較して外出していることが多い」「デモに参加していたことで電話に応じられず、世論調査の数字に反映されなかった可能性もある」と調査手法を批判している。前節で説明した対策や処理が行われていれば、部分的にしか批判は妥当ではない。

3. 産経FNN合同世論調査が怪しいところ

批判者もそれが当然と言っているので同意しているような気がするのだが、産経新聞のデモ参加者が特定政党に偏っていると言う主張は間違いではない。記事になっていない部分の集計値も出ているのだが、そこのQ2に回答者全体の支持政党の割合がある。例えば共産党を見ると回答者全体は5.4%になっており、集会参加経験者の41.1%の1/8にとどまる。調査した政党支持者の偏りでは説明できない。また回答者全体の支持政党の割合は、他の世論調査と大きな違いは無い。しかし、怪しいところはある。

率から人数を計算してみよう。回答者1000名のうち3.4%が集会参加経験者→丁度34名、34名中41.1%が共産→13.974名、34名中14.7%が民主→4.998名、34名中5.8%が生活→1.972名、34名中73.5%が四党→24.99名となるのだが、端数の小数点第一位が全て9になる事に注目して欲しい。ウェイト調整をしていたら、もっと半端な人数になる可能性が高い。世帯に有権者が3名いると、重み付け3倍で数えるはずだからだ。世帯人数を調整していない蓋然性が高い。回答者の年齢割合に応じた調整でも端数が入って来るはずだが、それもされていないであろう。

質問文が説明的過ぎてバイアスがかかっていないか気になる所もあり*4、産経FNN合同世論調査が望ましい手法を取っているとは言えないであろう。ところで、母集団を代表している標本集団を「一般市民」と形容するのは辞めて欲しい。

*1「朝日RDD」方式とは

*2調査方法を詳しく解説したページは見つからなかったのだが、 2013年9月の調査の最後に、以下の記述がある。

■世論調査の方法 調査エリアごとの性別・年齢構成に合わせ、電話番号を無作為に発生させるRDD(ランダム・デジット・ダイヤリング)方式で電話をかけ、算出した回答数が得られるまで調査を行った。調査対象は全国の成年男女1000人

「調査エリアごとの性別・年齢構成に合わせ」が、何を合わせたのか謎だし、何かを合わせたらランダム化されていない事になりそうで、この記述からして怪しいが。

*3もちろんケータイしか持っていない世帯が、そうではない世帯と異なる意見を持っていても、現状の固定電話番号だけを対象にした調査では、全く情報がないので反映されない。RDD方式から得た若者の意見は、大世帯で生活する若者の意見でしかない可能性はある。

*4他の調査に比較して大きな問題があると言うほどでもないが、、Q6の「集団的自衛権行使の限定的容認を含む」は、回答者に法案が限定的なものだと暗示してしまい、Q6のみならず、Q7以降にも影響してしまう可能性がある。Q7の「日本の安全と平和を維持するために」も、「ために」を「ための」に誤読する回答者が出てくるかも知れない。

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