思考実験と呼ばれる哲学的な議論がある。極端な状況を考えることで学説などの論理的な整合性を評価する行為で、有名なものはその名前が広く知られており、色々な文脈で言及され一般化している。アニメや漫画のモチーフになっていることも多い*1。
しかし、元々の話がどういうものか、把握できていない事も多いと思う。数学や物理などを学ばないと出てこない話も多いし、その数も少なくないからであろう。語感だけで思考実験を把握したつもりになって、その本来の意義が分からなくなっている無教養な人も多い。
教養人になる必要は無いのだけれども、クオリアなど意味不明な単語が飛び交っている昨今、それが気持ち悪い人もいるかも知れない。クリオネと同種の生物かと思ったら、まったく違った。マクスウェルの悪魔のように中二病が誘発される単語への予防も必要だ。「頭の中は最強の実験室」は著名な思考実験の概要を集めた本で、精神安定に寄与してくれる。
構成としては、PART Ⅰが掴みで倫理、数学、物理学の話が紹介されたあと、PART Ⅱに哲学的な、PART Ⅲに数学的な、PART Ⅳに物理学的な話がまとめられている。読み手の性格にもよると思うが、ウェブで見られる意見ではPART Ⅳが難しく感じるらしい。そんなに物理の知識が要求されるわけではないのだが。色々とあるので、全部を知っている人は少ないと思う。私も眠り姫問題*2は知らなかった。
色々な学問分野のぱっと見でも面白い小噺を集めた本に過ぎないわけだが、それでもある種のポイントを抑えることが出来る。“最強”と言う形容詞が適切だとは思えないのだが、そう難しい本でもない。アニメや漫画が好きな人は読んでおくと作品理解が深まって、二倍お得かも知れない。銃夢の中のザレム人はチューリング・テストをパスするあれ(何?)なんだなと。そういう需要が無くても、神秘的な単語などに刺激されて珍説を思いつく人々にはぜひ読んで欲しいのだが、そういう人はインプットを嫌うので、これは叶わぬ希望であろう。
*1思考実験のコンセプトだけが広まっている面もあるので、原作者や脚本家がどこまで意識しているかは分からない。
*2眠り姫問題の変形バージョンが紹介されている。オリジナルの眠り姫問題も、本書の著者がウェブで紹介している(眠り姫問題 信念の度合い或いは主観確率を)。
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