2015年8月18日火曜日

銃・病原菌・鉄と言うより、農牧業の発生と波及、その影響

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銃・病原菌・鉄』はSNS上でよく言及される信奉者が多い、歴史学もしくは文化人類学の名著で、世界の文明の発達の違いを説明した本だ。内容はエピローグを読めば分かるのだが、大陸ごとの自然環境が大きく影響したと主張されている*1

近世以降の征服者と被征服者を分けたものは、鉄器や銃や文字などの技術の差と、病原菌への免疫力の差であった。少数のスペイン人が南米を征服できたのは、軍事技術の差は勿論のこと、持ち込んだ感染症が現地社会を壊滅させたことが大きな理由である。

この二つの差がどこから来るかと言うと、農業と畜産の発生と発展に集約されるそうだ。技術者や官僚機構を支えるだけの食料生産能力が無ければ、技術の維持・発展ができない。また、家畜が傍にいて病原菌を媒介することで、自分に免疫がある感染症を異民族にもたらせるようになる。

農業と畜産の発生は、自然環境に大きく左右される。短期で安定して収穫できる植物が見つからないと、農業は行われるようにならない。気候が不安定で周期的に旱魃に襲われるなどしても無理になる。大型動物の家畜化ができないと耕作・輸送能力が限定されるが、家畜化可能な大型動物は偏在している。農牧業が発生しても、似たような気候の土地が続いていないと、その伝播や拡散に時間がかかる。

ユーラシア大陸は農牧業の発生と普及に適していた上、土地が広かった。そのため人口が多くなり社会の競合が激しくなって、技術を発明する可能性も、それを積極的に取り入れる必要も高くなった。これにより、他の大陸よりも鉄器や銃や文字などの技術の発達が促され、かつ副作用として感染症の媒介者になったそうだ。

このように主張自体はシンプルだが、かなり長々と記述されている。上下二巻組み。また、ちょっと前の本なので、細かい部分で情報が古いかも知れない。クロマニヨン人とネアンデルタール人が交配した形跡がないと書いてあるのだが、最近の研究では現代人にネアンデルタール人の遺伝子が残っているとされている。さらに、ユーラシア大陸の中でも中国ではなく欧州が世界進出した理由*2など、今後の課題としている部分もある。

特定の地域の特定の時代について書かれた本に比べると大雑把過ぎるきらいはあるが、ニューギニア、オーストラリア、ニュージーランドの記述が多く、オセアニアに詳しい人は少ないであろうから大半の人には新鮮だと思う。遺伝子情報からだけではなく、言葉の分布などから技術拡散の足取りがつかめる事など、論拠についてもしっかり言及されているし手堅い。途中で飽きてしまうかも知れないが、読み切る価値はあるであろう。そう、最後はかなりだれてきた。

*1人種ごとの能力の差ではないことが強調されるが、冗長に感じる。欧米人では良く言われる説なのであろうか。

*2欧州では多数の政治機構が共存していたので、海洋進出に興味を示す権力が一つは出てくる確率が高かったそうだ。統一されていれば、一つが拒絶したらそこで可能性は無くなる。

1 コメント:

s.wakatsuki さんのコメント...

この人よく読んでまとめてる。僕も読んでとても意義深く感じていて、ダイアモンド氏のこの本の続編に当たる「昨日までの世界」を読んでるけど、この人の考察は素晴らしいと思う。

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