世界遺産登録を巡って、日本政府が第二次世界大戦中の朝鮮人の強制労働を認めたと話題になっているが、岸田外相のコメントを含めてかなり冷静さを欠いている。徴用は赤紙のかわりに白紙が届く、原則拒否不可能な強制だ。朝鮮人徴用工の存在は認めているのだから、日本政府の見解は従来と何ら変わらない。
1. 日韓の見解の相違点
この問題に関する日韓の見解の相違は、強制労働の有無ではなくて適法性だ。日本政府の言い分は、戦時徴用は合法。韓国政府の言い分は韓国併合が違法で、日本政府は朝鮮人に命令する法的根拠を持たなかったので、戦時徴用は違法。今回、これに関わる部分は無い。
英語の表現でも、議論の余地はないと思う。徴用を英訳したら(徴兵と見分けがつかないが)compulsory recruitmentになって、compulsoryの同義語を見るとforcedになる。forced to workと言って、何の問題も無いであろう。鎖に繋いで強制連行したと思わせたい、思わせたくないと言う思惑はあるわけだが、強制については議論の余地は無い。
3. 岸田外相のコメント
もちろん岸田外相のコメントは意味不明だ。「『forced to work』との表現等は、強制労働を意味するものではありません」 と言うのは、国際法上のforced laborではない*1と言いたいのであろうが、言語能力に問題を感じてしまう。「『forced to work』との表現等は、強制連行を意味するものではありません」と言っておけばよかった。
4. 韓国メディアが元気な理由
これが大きなニュースになるのが分からないぐらいの話だが、ユネスコは政治論争するところじゃないと事務方に言われて、単独で反対する羽目になりそうだと察知した韓国政府が、日本政府が今までも認めているところ ─ 朝鮮人徴用工も働いていた ─ を、メディアに大きく報道させている気がする。実際、各国の意見表明は省略された。
3. 他の問題とは関係ない
太平洋戦争中の僅かな時期に朝鮮人徴用工が働いていたからと言って、幕末から明治に建てられた近代化産業遺産の説明にわざわざ書き加える必要があるのか疑問はあるのだが、日韓外交に与える影響は皆無に近い。この話が他の問題にも適用されると言う人もいるが、それも無理がある。従軍慰安婦には白紙は届いていないから、彼女たちは徴用されていない。新日鉄住金の戦時徴用賠償裁判は、徴用ではなく官募集を強制労働と韓国人や左翼活動家が言い出している。
*1forced labourと書くと、強制労働に関する条約(Convention on Forced Labour)の違反事項を想像させるので、ニュアンスが変わってくるそうだ。
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