2013年5月17日金曜日

確定給付型にFanti(2012)のモデルを書き換えると

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id:himaginary氏から指摘を受けたので、Fanti(2012)のモデルを再検証したのだが、やはり保険料τが一定な確定拠出型であることが、モデルにおいて重要な役割を果たしていると言う結論に達したので、理由を説明したい。

本稿では、確定拠出型と確定給付型の違いを確認した上で、Fanti(2012)のモデルにの貯蓄決定式を微分することで、保険料τが貯蓄に与える影響を確認する。次に、より現実に近い議論を簡潔に行うために、消費者の予算制約式を確定給付型に変更して、貯蓄の決定式を導出して、年金給付期間λの変化が貯蓄に与える影響を検討してみる。

結論は、年金給付期間λが貯蓄に与える影響は、確定拠出型のFanti(2012)と確定給付型モデルでは全くの逆になると言うもので、Fanti(2012)のモデルで保険料τが一定なことが重要な仮定になっている事を示すものである。

1. 確定拠出型と確定給付型、積立方式と世代間扶養方式

公的年金の設計は二つの選択肢がある。一つは、積立方式と世代間扶養方式のどちらにするか。一つは、確定拠出と確定給付のどちらにするか。Fanti(2012)が仮定したDiamond OLG*1をベースにした年金モデルは、世代間扶養方式の確定拠出型になっている。しかし、日本などの公的年金制度は確定給付型になっており、そもそもの方向性が大きく異なっている。

2. 何を政策パラメーターとするかの問題

確定給付型だとどうなるかと言うと、一回の給付金であるzt+1が一定になる。zt+1を維持するために、年金保険料や年金給付開始年齢を調整するわけだ。保険料τが一定の年金システムであれば、社会保険料の増大が問題になる前に、年金の絶対額の減少が問題になる。

しかしFanti(2012)では、τが一定で、年金給付期間λが政策パラメーター、zt+1と年金給付総額λzt+1が従属的に定まる変数としている。実際の年金制度はzt+1が一定で、τがそれに自動的に調整される。これは日本の過去のデータでも、そうされてきた事が確認できる。

3. τが下がると何が起きるか?

Fanti(2012)の政策的インプリケーションは、以下の(10)式で表される貯蓄stの変化にかかっている。労働市場の競争度とも言えるが、資本装備率が賃金と成長率を決定しているからだ。

γは主観的割引率、wtはt期の賃金、wt+1はt+1期の賃金、rt+1はt+1期の利子率、nは人口増加率である。

一階微分をしてみれば分かるが、τが増えるとstは下がる。τが下がるとstが増える。τが一定でないと、λの影響は混沌としてくる。確定拠出型であればτを一定と見なしていいが、λがτに影響する場合は、ここの部分は見過ごせない。

フランスでは年金支給開始年齢の引き上げも、年金給付額の引き下げも行われているし、日本も社会保障制度改革国民会議次第だが、そのようになる見込みだ。

4. 確定給付型のモデルに書き換えると、含意が逆転する

実はFanti(2012)のモデルにλからτが決定される仮定を追加したかったのだが、ややこしい計算式になったので断念した。代替として確定給付型の年金額が固定的に決まるように、消費者部門を修正してみよう。

subject to

Utは効用、c1,tはt世代の若者時の消費、c2,t+1はt世代の高齢時の消費、Ψは年金支給額高齢者の収入(年金支給額と賃金収入)、Tは税金となる。確定給付型なので、Ψが定まれば、自動的にTが以下のように定まる。

高齢者の賃金wt+1・高齢者の労働時間1-λを引いた額を、若者の人口1+nで分担している。年金生活期間λが短くなれば労働時間が多くなって、若者にかかる保険料が減る。

対数線形型の効用関数なので、貯蓄が出る*2

年金受給期間λで微分を取ると、負になる。つまり、年金受給を遅らせて働いてもらうほど、貯蓄が高まることになる。Fanti(2012)のインプリケーションは、容易に逆転するわけだ。

∂rt+1/∂λ<0に注意すること。年金受給期間が長くなるほど労働力が減るので、金利は下落する。

政策的にΨがゼロ高齢者の賃金収入以上である必要性は、リスク回避型の効用関数と不確実性を導入するなりして理論付けがいると思うが、確定給付型で考えると老人世代の労働が問題になる事は無い。

追記(2013/05/18 15:00):このモデルでは一回の年金給付額zt+1={Ψ-(1-λ)wt+1}/λが削減されることになると言う指摘を受けた。確定給付型としても過剰に世代間格差を調整しているが、高齢者の生活水準の維持が政策的な関心事項であるため、調整幅として大き過ぎることは無いであろう。

なお、zt+1が一定の場合のλのstに対する影響は以下のようになり、γ、zt+1、1+nに依存する。余命が伸びてγが伸び、一回の年金給付金額zt+1が大きく、少子化でnが負のときに、λの減少は貯蓄を増加させることになる。

5. 政策的インプリケーション

保険料が一定なのか、給付額が一定なのかで、年金給付開始年齢を引きあげたときの政策的インプリケーションは逆転する。

Fanti(2012)の議論は面白いのだが、確定拠出型のモデルになっているので、やはり現実との乖離が大きくなっているようだ。確定拠出だとしても、τが0以上あると死ぬまで働いても年金がもらえるとか、気になる部分もある。この論文を見て年金給付年齢の引き上げは悪だと思いそうな人もいるので、少し怖い。

最後に蛇足的だが、高齢世代は投資が出来ないと言う仮定は、ライフサイクル仮説を前提にしている以上は、問題無いと思う。高齢者は安全資産を持つだろうし、運用期間も短くなる。

*1世代重複モデルで見る少子高齢化と利子率」を参照。

*2計算方法としては、まずは制約付最大化問題なのでラグランジュ方程式を置く。t+1期の消費は利子率で割り引かれている。

c1,tとc2,t+1で偏微分をする。

ラグランジュアンξを消すと、以下のようになる。

一方で、制約式からc1,tとc2,t+1の比は以下のようになる。t期のstは、t+1期には利子がついて(1+rt+1)stになる事に注意。

上の二式を等号で以下のようにつなぎ、これをstに関して整理して導出終わり。

効用関数が対数線形だから簡単に計算できることに注意されたい。

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