2024年4月19日金曜日

北村×雁琳訴訟の判決文から得られる教訓:事実の摘示は省略せず、かつ慎重に行いましょう

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「ポリコレリベサヨうんこ学者」が侮辱になるか否かが争点だと思っていた北村×雁琳訴訟の判決が4月17日に出て、雁琳氏に220万円の支払いが命じられた。SNSでのこの手の訴訟としてはかなり高額な部類に入る。どういう理由がついているのかと思って判決文が公開されていたので拝読してみたら、予想外のところがポイントになっていた。

問題となったツイートは11ある。オープンレター「女性差別的な文化を脱するために」が(北村×呉座の)和解違反だという前提での投稿①②③⑨が、すべての虚偽の事実の摘示による名誉毀損になっている。④⑤⑥⑦は、おそらく雁琳氏は意見論評を書いているつもりだが、意見論評の対象となる事実を明確にしていないので、④⑤は虚偽の事実の摘示、⑥⑦は無根拠な意見論評と受け取られている。⑧は北村氏の著書に中指を突きたてた写真が侮辱と認定された。⑩は不法行為とされなかったが、⑪も北村氏が過去に歴史修正主義をどう定義していたかの事実の摘示が虚偽であると認定された。

意見論評は罵倒があっても適法になる傾向がある一方、虚偽の事実の摘示があったり、そもそも事実に基づかない罵倒はあっさり不法行為になる。虚偽であっても真実相当性があればよいのだが、裁判官でも誤解しそうなことでないと認めてもらえない。2021年4月にオープンレターが出されており、2021年7月に和解が成立している事実があるので、①②③⑨はかなり雁琳氏の弁明は苦しい。④⑤⑥⑦は話の前提が明示されていなかったので、評論と認めてもらえず侮辱扱いになった。⑥は男性皆殺し協会マニフェストに関する北村氏の「びびるだろうね!楽しいな!」と言うような発言を前提にしたものだと弁明をしたが、ツイートでは明示的に前提としていない。

雁琳氏のポリシーから控訴し、その結果、減額される可能性はあると思うが、全面的に判決を覆すのは難しそうである。⑦の「ポリコレリベサヨうんこ学者」、⑧の中指つきたて写真は侮辱にしても受忍範囲ではないかなと思うし*1、⑪の北村氏の歴史修正主義の定義については、オープンレターでの意味が例外であることを予想するのは一般人の注意力からして把握するのは難しいので、真実相当性があると判断してもらえるかも知れない。また、カンパを募ったことが賠償の増額理由になっている点も一般的な判断とは言えない。しかし、問題となった雁琳氏のツイートが2021年11月3日以降で、2021年7月の呉座氏のブログでの和解報告を見た蓋然性が高いことを考えると、和解違反だという推測は無理がある。雁琳氏自体は固く信じてはいたと思うが。

さて、部外者が地裁判決から得るべき教訓は、事実の摘示は省略せず、かつ慎重に行うべきという事になる。事実の摘示をしっかり行っておけば、多少の暴言は意見論評として許容される可能性は高い。また、事実の摘示を慎重に行えば、勘違いで名誉毀損をする可能性を抑えられる。3月20日に呉座氏が北村氏に謝罪したのにも関わらず、呉座氏の行為を非難するオープンレターを出したことを非難したのはおかしいという内容であれば、不法行為には問われなかったはずだ。

*1SNSでの侮蔑発言も、挑発行為もよくあるし、大抵は流されている。

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