2025年8月1日金曜日

NENENENE@研究さんの「女子枠」批判論文のある論文の言及は、おそらくハルシネーションで主語デカイ問題が起きている

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NENENENE@研究こと國武くにたけ悠人ゆうと氏の論文Kunitake (2025)のある箇所をチェックしたら、私が確認した限り、ハルシネーションになっていたので指摘したい。スウェーデンと書くべきところを、EUと書いてしまっているようだ。

Kunitake (2025)の冒頭の部分なのだが、

Similarly, in the EU, while affirmative action using scholarships and similar measures is permitted to some extent, the prevailing view is that direct quota-based systems in university admissions selection are illegal (Martin Barradas, 2011)(拙訳:同様に、EUにおいても、奨学金や似たような手段を用いたアファーマティブ・アクションはある程度許可されているものの、大学入学者の選抜において直接クオータ制に基づく制度を用いることは違法であるというのが、一般的な見解である(Martin Barradas, 2011)).

とある。この記述は奇妙だ。2025年にフランスのEPF工科大学で女子枠が新設されている*1。また、ドイツの大学には女子枠と言える女子コースが現在まである*2

Martin Barradas (2011)を参照したら、どういう理屈なのか説明があるのかと思ったら、そんなことは無かった。まず、direct quota-based systemsと言う表現がない。次に、欧州司法裁判所(ECJ)はクオータ制度を容認していること、クオータ制が女性にだけではなく男性への間接的な差別解消に有用なことを主張している。性別クオータが無条件に認められるわけではないことは指摘しているが、直接やら間接やらと言うような話はしていない。

ECJの見解については4つの裁判を参照している。(1)Kalanke vs. Freie Hansestadt Bremen事件,(2)Marschall vs. Land Nordrhein-Westfalen事件,(3)Badeck vs. Landesanwalt Beim Staatsgerichtshof des Landes Hessen事件,(4)Abrahamsson and Anderson vs. FogeLqvist事件。このうち(4)が教育業界での事件で、議論になったクオータは違法と判定されたが、選考基準の透明性が確保されていなかったためだとMartin Barradas (2011)では総括している。なお、(4)を事件名で検索して確認したところ、教員ポストの話で入学選考の話ではなかった。

ECJ判決分析のまとめとして、Martin Barradas (2011)は、

These cases are examples of how the of the ECJ has tended toward considering quota systems in favour of the under-represented sex admissible, when based on equal merits(拙訳:これらの事件は、ECJが、同等の実績に基づいている場合に限り、少数しか存在しない性別を優遇するクオータ制度を容認可能と見なす傾向にあることを示す事例である。).

と総括している。

In conclusion, EU law endorses preferential treatment for the under-represented sex not only in the area of labour but also in education. Moreover, as referred to in section 4.4. of the thesis, quotas are included among the existing positive action measures prescribed by EU law, in the area of higher education, as can be verified from the analysis of the Abrahamsson and Anderson versus FogeLqvist case of the ECJ(拙訳:結論として、EU法は労働分野だけでなく教育分野においても、少数しか存在しない性別への優遇措置を支持している。さらに、本論文のセクション4.4で言及したとおり、ECJのAbrahamsson and Anderson vs. FogeLqvist事件の分析から確かめられるように、クオータは高等教育分野におけるEU法によって規定されている既存のポジティブ・アクション措置の中に含まれている。).

私にはAbrahamsson and Anderson vs. FogeLqvist事件は教員ポストだから労働分野に思えるが、Martin Barradas (2011)は教育分野でも性別クオータは適法と主張している。なお、この事件についてMartin Barradas (2011)は、他3件と異なり、ECJが少数しか存在しない性別の適格性は多少劣っていても許されると指摘したことに言及しているので、性別クオータを柔軟に運用する可能性を見出そうとしているようだ。

Martin Barradas (2011)でも、スウェーデン農業科学大学(SLU)の獣医学部の選考方法が裁判になり違法となったことが指摘されているので、Martin Barradas (2011)をひいてスウェーデンでクオータ制は違法とは言える。しかし、EUではと言えるようには思えない。

Martin Barradas (2011)はそこそこページ数もあるし私が読み飛ばした可能性もあるのだが、Kunitake (2025)のMartin Barradas (2011)の言及は、ハルシネーションではないであろうか。

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