2013年1月22日火曜日

時代遅れ vs ゾンビ経済学

このエントリーをはてなブックマークに追加
Clip to Evernote
Pocket

浜田宏一イエェール大学名誉教授と野口悠紀雄早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問のNHK日曜討論が話題になっていた(NHK日曜討論で浜田宏一・野口悠紀雄両氏がバトル)。将棋の対局のように裏に解説がいないと何を言っているのか分からない人もいたのでは無いかと思う。及ばずながら、幾つか注釈を入れたい。

1. 先手、野口悠紀雄

野口「(量的緩和で)経済成長も促進されないし、雇用も増えない。なぜかといえば社会全体のお金の量が増えなかったんです。日銀が金融緩和をして、当座預金は二倍位に増えたんですが、マネーストックは10%位しか増えなかった。なぜそうなるかといえば、貸出需要がないからなんです。これはデータで非常にはっきり分かっています。」

野口氏の指摘は統計に基づいている。日本の量的緩和期は2001年から2006年なのだが、マネタリーベースの拡大に関わらず、マネーストック(M2)が増えていない(平成23年度年次経済財政報告第1-2-15図)。

貸出需要がないと言うのも根拠がある。ずっと企業が資金余剰で、それは投資水準が落ちてキャッシュフローが潤沢になっているためだと考えられているからだ*1

また、Krugman(1998)で量的緩和は効果が無いと予言されている*2し、Woodford(2012)*3でも量的緩和の効果は懐疑的なので、「時代遅れ」とは言えない。

2. 後手、浜田宏一

本多教授らが示しているように、量的緩和でゼロ金利で野口先生のおっしゃることは多少起こったがやはり日本経済にはプラスの影響がある、というのが実証的に証明されている。

浜田氏の反撃は、幾つかの計量的な研究に基づいている。本多・立花(2012)本多・黒木・立花(2010)の事であろう。ただし、これらの研究では鉱工業生産や株価への影響があるとする一方で、マネーストックや為替レートやインフレ率への影響は確認できていない。また、テクニカルには分析されている変数が対数化されているだけなので、景気回復期の見せかけの相関の影響が考えられる。

私が銀行に借りに行っても貸してくれないでしょう。それは担保が足りないからで、株式、そして土地の資産価値が今後上がってくれば、担保が増えて貸出市場にも極めて強く効く、というのが今の連銀議長でまた立派な経済学者でもあるバーナンキ先生が言っていることです。

これはBernanke and Gertler(1989)*4、もしくはKiyotaki and Moore(1997)の事を指しているのだと思われる。ただし、これらは災害や金融危機などで担保能力が低下したときに企業が資金不足に陥りマクロ経済が悪化する事を示したものであり、企業が資金余剰状態で成立する理論なのかは疑問が残る。

3. 浜田・野口の合意部分

中央銀行の独立性、特に総裁の罷免に関する部分は、浜田氏・野口氏は合意しているように思えた*5。財政出動に関しては、浜田氏は効果に懐疑的、野口氏は財政負担を深刻に捉えているようだ*6

4. 勝敗 ─ 視聴者の印象でどうぞ

量的緩和の効果が無くても、実の所は浜田氏の主張は揺るがない。中央銀行のコミットメントの重要性をフォーマルに分析したEggertsson and Woodford(2003)や、長期国債の買い切りオペの有効性を指摘しているAuerbach and Obstfeld(2005)に基づけば、2003年から2006年の日銀の量的緩和は有効である必要が無いからだ。野口氏に正面から反撃したのは、恐らく視聴者への印象を考えての事であろう。もっとガチガチに言い合えば面白かったのだが。

なお、野口氏も浜田氏も時代遅れでもゾンビ経済学でもないと思います。

*1住友信託銀行調査月報2012年2月号

*2関連記事:クルッグマン論文を使って、池田信夫を応援する

*3量的緩和の無効性を指摘しつつ、財政政策と名目GDP水準目標(アベノミクスではインフレ目標)の導入を主張している(関連記事:名目GDP水準ターゲット政策)。

*4関連記事:マクロ経済ショックが長引くある理由

*5関連記事:政治がインフレ目標値を定めてはいけない理由

*6関連記事:「日本国債」の本当の問題

0 コメント:

コメントを投稿