2012年11月9日金曜日

経済学的な裏づけはあるオバマの政策

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オバマ再選でアメリカ経済はさらに停滞するだろう」と言うブログのエントリーで、オバマ大統領の政策が経済を低迷させると主張している。新自由主義者には理解したく無いのであろうけれども、経済学的にオバマ大統領の政策は、少なくとも一方の立場からは妥当と言えるものも多い。目や耳を塞いで新自由主義を唱える人が見るとも思わないが、幾つかツッコミを入れてみよう。

1. 金融規制

まずは金融政策の部分だが、金融機関の規制は無理があるので、銀行にリスク回避的な行動を取らせるために、救済をしないと宣言すべきだと、ドッド・フランク法案を否定している。銀行員と預金者の利害対立があるので、この議論は単純すぎる。

ミクロ金融理論には二つの代表的な銀行の論文がある。Diamond(1984)*1では銀行員と預金者の間には利害関係があるので、銀行員が暴走しないように自己資本比率などの規制が必要だと議論している。Diamond and Dybvig(1983)*2では預金と貸出に時間整合性が無いため、銀行預金が補償されると宣言されないと、取り付け騒ぎが発生して長期投資が行えなくなる事を議論している。

銀行員は規制し、銀行預金は保護しないといけないわけだ。だから、銀行救済は放棄できないし、規制は強化せざるを得ない。

2. 増税と大きい政府

次に増税を批判しているが、オバマ政権が実行しようとしている高所得者の所得税率が景気に与える影響は不明だ(関連記事:所得税の最高税率75%とフランスの不動産市場)。高税率で知られる北欧諸国が経済縮小しているわけでは無く、伝統的なケインズ政策の文脈では高税率・高政府支出の方が経済は拡大する。所得格差が小さい方が経済成長を促進すると思われており、従来は経済にマイナスだと言われていた法人税や利子所得課税なども、貯蓄(=投資)を減少させる効果が限定的であること、利子所得課税が安く所得税が高いとストック・オプションでの給与が多くなる事から、最近の研究では見直しがされている(関連記事:法人税と利子所得課税が不足している)。

3. オバマケア

最後にオバマケアを批判しているが、医療保険制度が経済活動を停滞させた事例は無いと思われる。社会保険の中でも医療は純粋な移転所得に近いので、雇用保険のように労働供給を減らすような弊害も考えづらい。ある一部門のミクロ的な効率性の問題なので、マクロ経済への影響は微々たるものであろう。そしてミクロ的にも、オバマケアが悪いとは言えない。

現状の米国の医療制度が効率的かと言うと、そうとは言えない。一人あたりの医療費の割には平均寿命が短い(図録▽医療費と平均寿命(OECD諸国))。民間で競争を行うと、広告宣伝費などのコストが増加する一方で、安い保険料で狭いカバレッジの狭い健康保険サービスを提供しがちになる。富裕層向けの医療サービスが充実する一方で、中低所得者はサービスを制限されているのであろう。医療費の限界効果は逓減するであろうから、全体としては効果が薄くなる*3

4. ありがちな新自由主義者

非エコノミストの新自由主義者の典型的なパターンだが、思想的な立場から、オバマ大統領が経済が分かっていないと非難している。

オバマは決して悪い人には見えないが法学部出身でリベラルな人間にありがちな典型的なパターンで経済というものがまるでわかっていない。

ノーベル賞経済学者5名を含む多数のエコノミストが、減税を主張し、規制強化や公的医療保険制度を批判していたのも確か(Economists For Romney)。しかし、ノーベル賞経済学者のポール・クルッグマン、国財務長官経験者で著名経済学者のローレンス・サマーズ*4、自由主義路線を標榜するThe Economist誌はオバマ政策を支持している。多少、経済理論や実証データに詳しい人が見れば、政治家としてオバマ大統領が経済政策通である事は否定できない。

実際に問題になっているのは、共和党が政策に協力しないことであって、その政策の内容自体では無いようだ。オバマ大統領は妥協できない人物でもない*5し、何とか共和党と折り合いをつけてやっていく事は希望しても良いはずだ。悲観的な予言をするのは、まだ早い。

*1Diamond, Douglas W, 1984. "Financial Intermediation and Delegated Monitoring," Review of Economic Studies, Wiley Blackwell, vol. 51(3), pages 393-414, July.

*2Diamond, Douglas W & Dybvig, Philip H, 1983. "Bank Runs, Deposit Insurance, and Liquidity," Journal of Political Economy, University of Chicago Press, vol. 91(3), pages 401-19, June.

*3公的医療制度がほどほどの治療指針を出さないせいか、医者が情報の非対称性を生かして費用対効果の薄い高額治療を患者に勧めたり、民間保険会社が保険金支払いを抑制するために必要な医療サービスへの支払いを拒否するホラーストーリーが発生したりしている。医療費負担が低いため、病院の待合室が老人の歓談の場になっていると言う日本の事例も、ホラーストーリーだが。

*4経済政策はロムニー氏よりオバマ大統領がまとも』でオバマ大統領を擁護し、『「オバマの赤字」のうそ』で現在の経済問題が、ブッシュ政権時代に始まっていることを指摘している。

*5米国医療保険制度改革のドタバタ

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