経済評論家の池田信夫氏が「日本経済のボトルネックはデフレではない」と主張している。生産年齢人口の減少と生産性上昇率の低下が、均衡実質金利、つまり自然利子率を低下させて流動性の罠にはまっていると言う主張だ。
この議論は概ね理解できるが、問題もある。
- 均衡実質金利の低下は、インフレ目標政策を否定しない。期待インフレ率が高くなれば、均衡実質金利がマイナスであったとしてもプラスにする事ができる。これは僅かでも経済に寄与する。
- 構造改革で、大きな生産性向上を望めない。2001年から2010年までの日本の一人あたりGDP成長率はEUや米国よりもよかった(Whose lost decade?)が、デフレのままだった。2000年以降、TFP成長率も上昇している(RIETI - 日本のTFP上昇率はなぜ回復したのか)。
- 生産年齢人口の減少と生産性上昇率の低下だけでは、均衡実質金利をマイナスにする事ができない。資本が前倒しで償却されているなどの想定が必要になる(平田(2012))。
- 貯蓄超過になっているのは、実質金利が高止まりしているからとも説明でき、流動性の罠との因果関係が明確ではない。
過去10年間の経験から言えば、構造改革で生産性を向上させるにしても、流動性の罠から脱出できる見込みは薄い。池田氏の主張では「人口要因を変えることは容易ではないので、生産性を上げることが重要」とあるが、どちらかと言えば、移民を受け入れる*1なりして、生産年齢人口を増加させる方が容易な方法であろう。
池田信夫氏はインフレ目標政策に否定的だ。
実質金利を下げる方法としては、日銀が将来の利上げをしないことにコミットしてインフレ予想を醸成する時間軸政策があるが、その効果は限定的だ
その時間軸政策がクルッグマンの言うインフレ目標政策*2で、例え効果が限定的であっても、無制限の量的緩和は必要は無いのだから弊害も少ない。日銀がインフレ目標政策を導入しても、政府の構造改革を阻害するわけでも無いのだから。
*1もちろん、社会的軋轢などが予想されるため、望ましい政策とは限らない。
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