2012年11月2日金曜日

所得税の最高税率75%とフランスの不動産市場

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何かポジションを取ると、例えば新自由主義者を名乗ると、だんだんと事象を直視するのが難しくなっていくようだ。

フランスの所得税の最高税率75%への引き上げで、富豪向けの不動産の売り物件が増えていると言う話をしているブログのエントリーがあった。富裕層が国外へ逃避していると言いたいらしいが、少なくとも四つは見落としがあるように思える。

  1. 相続税ならともかく*1、所得税の回避のための国外移住は意味が無いケースが多い*2。フランス国内で得られた所得は、国外居住者にも課税される。
  2. 富豪はキャピタルゲインを含めた利子所得が多いため、給与所得にかかる所得税の最高税率で大きな打撃を受けない*3
  3. フランスもユーロ危機の影響を受けているので、税制だけが不動産市場を決定するわけではない。
  4. タックス・ヘイヴンを利用したい富豪は、既に所得税の低いスイスに移住しているであろう(ウェッジ)。

所得税率が上がる事自体は、富裕層がフランスから逃げ出す大きなインセンティブにはならない。また、税率が高いと地下経済が発達するという説もあるのだが、フォーマルな計量分析によると、最高税率70%ぐらいまでは税収が増えると言われている*4

元ネタは著名経済学者のマンキューのブログのエントリーに紹介されていたYahoo! Financeの記事なのだが、不動産ブローカー曰く、増税に伴う国外移住に備えて富裕層が不動産を売却しているとある*5。実際に売りに出している富裕層にインタビューしたわけではない。

引退した金持ちがフランスからベルギーに移住しているって? ─ それは相続税率が違うのですよ。所得税率の問題ではない。

*1消費者ローン大手の武富士の創業者の長男が香港に移住することで、相続税の課税を免れた例がある。

*22006年に「ハリー・ポッター」シリーズの翻訳者である松岡佑子氏が、スイスに居住しているとして日本での申告を行わなかったところ、生活実態は日本にあるとして東京国税局に追徴課税されたケースがある。

*32010年にウォーレン・バフェット氏が6300万ドルの所得で、連邦所得税690万ドルしか払っていない事が明らかになっている(WSJ)。問題になっているのは富裕層の税率もそうなのだが、キャピタルゲイン課税の部分も大きい。

*4Diamond(1998)Saez(2001)を参照。

*5フランスの不動産の購入者の多くは裕福な外国人であり、新たな税で打撃を受けていないためか、不動産価格が暴落しているわけでは無いそうだ。下げ幅は5%程度らしい。

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