2011年5月11日水曜日

地震の発生確率について、文系らしく説明してみる

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元総務大臣の竹中平蔵氏が、地震の発生確率についてラフに計算した数字をtwitterでつぶやいたので反響を呼んでいる。

この先一年、一ヶ月で考えれば確率は小さいと言いたかっただけなので、適当につぶやいたと思うのだが、『正しい確率計算』に関して錯綜した意見が飛び交っていたので、文系らしく説明してみる。

1. 周期性の有無で確率分布が変わる

地震の発生確率の予測は、まず確率分布を仮定し、過去の発生間隔をあてはめることになる。

ここで周期性が無い場合は指数分布を、周期性が有る場合は対数分布やワイブル分布、BPT分布をあてはめる事になる。

分布が変わると、大きく確率は変化する。特に指数分布と、その他の分布では何倍もの差になるので、どちらを採用するかで世界が変わる。

2. 確率分布はBPT

東海地震の発生確率の予測には、Brownian Passage Timeと呼ばれる確率分布が予測に使われている。これは、10年ほど前から使われてきた新しい確率分布で、対数正規分布に形状が似ているが、赤池情報量規準などで評価すると、地震のモデルに当てはまりが良い事が知られている。もちろん他の分布と同様に、平均値と標準偏差から点推定を行える。

なお、確率密度関数は以下になる。

μは平均発生間隔、αは標準偏差/平均発生間隔であらわされる「ばらつき」である。

3. 過去の東海地震の発生間隔から分布を書く

過去の東海地震の発生年から分布を書いてみよう。歴史上、684年、887年、1096年、1498年、1605年、1707年、1854年の7回が観測されている。間隔をとるので、観測数は6。平均195年間隔、分散は12361.2だ。

濃いピンクが今後30年間の発生確率、薄いピンクが今後30年以降の発生確率になる。既に経過した年は絶対に地震は発生しないので、今後の確率計算からは除外する(更新過程)。ゆえに、濃いピンク/(濃いピンク+薄いピンク)が今後30年間の発生確率となる。

累積分布関数は確率密度関数の積分なので、統計解析パッケージを使えば、簡単にこの領域の計算はできる。算出された今後30年間の東海地震発生確率は、23.0307%だ。87%に遠く及ばない

4. 87%が出るようにサンプルを減らす

文系では、役人などが観測数を減らすことで、統計の見栄えを良くする事は常識として知られている。恐らく観測数を絞り込むことで、見栄えを良くしている。1498年、1605年、1707年、1854年の4サンプルだけで、グラフを書いて、今後30年間の東海地震発生確率を計算してみよう。85.8990%になった。

1%の差があるが、発生年データ自体が異なるのかも知れない。上述の分析では、端数となる何月何日までは組み込んでいないからだ。

5. 今後1年間、今後1ヶ月間の東海地震発生確率を計算する

竹中平蔵氏のtweetの後に、色々な分布で計算が検証されていたが、恐らく最も地震調査研究推進本部の想定に近い解は以下のようになる。

データ期間 発生回数 今後30年間 今後1年間 今後30日間
684年-1854年 7 23.0307% 0.8374% 0.0690%
1498年-1854年 4 85.8990% 5.7744% 0.4859%

こういう操作は日常茶飯事だが、政府に騙された気がする人は、「統計でウソをつく法 (ブルーバックス)」という名著を読むことをおすすめする。

追記(2011/5/12 21:30):確率論的地震動予測地図の付属文書を見る限り、1498年、1605年、1707年が東海地震であったかは疑問があるようだ。一方で、1200年前後、1360年前後に東海地震が発生した可能性もあるそうだ。基本的に統計モデル化する為の前提が整っていないことが分かる。

6. 予測精度に関しての注意

以前のエントリーでも説明したが、観測数が極端に少ないので、信頼性は皆無に近い。

弘前大学佐藤魂夫教授は、1968年十勝沖地震40年防災フォーラムで、地震調査研究推進本部は,確率論的地震動予測地図の利用に当たって,30 年震度6 弱以上の確率3%以下は決して安心を示すものではないと説明」と述べている。

片山さつき参議院議員は、経済産業部会で配布された資料に関して言及し、「福島第一、第二原発は、2011年1月1日時点でどのような地震確率だったのか。なんと、第一が0.0%、第二が0.6%です。」と述べている。

7. 文系らしく解釈してみる

原発災害の被害は十分に甚大である事を仮定する。原発が地震に耐えられるのであれば、85.8990%でも問題ない。原発が地震に耐えられずに福島第一と同様の問題を引き起こすのであれば、0.0690%でも十分に危険な確率だ。文系的には問題は発生確率ではない。保険会社はともかく、政策的には過去に一定規模の地震が発生した事実があれば、確率の大小は問題ではない

8. 地震学者の陰謀

過去に東海地震が発生している事も、浜岡原発にリスクがあるかも知れない事も大きな異論は無いのだが、今後30年間の発生確率87%を吹聴することで、東海地方の地震予知研究の予算を狙っているように思え、陰謀に感じてならない。片山議員のデジカメ画像付の情報からは、東日本大震災も予想外だったようだし、地震の長期予測でも学術的に十分な根拠があると言える状態ではないのは明白だ。

そもそも1980-2010年の30年間の発生確率は78%あったはずで、実際には東海地震は起きていない。20%の幸運にあったのか、予測モデルが間違っているのかどちらかだが、後者の可能性が検討されないのが不思議でならない。

9. 他のブログの分析について

地震の発生確率について』は、確率の計算や検証をしていないので、経済学研究科在学の大学院生としては、とても残念な記事になっている。Greeneを3回読み直せと言っておく。なおid:LibrePDM氏とは面識は無い。

「30年で大地震が起こる確率が87%」のときの「1年間に大地震が起こる確率」』は、そこの仮定から分布を特定すると指数分布になるのに、二項分布を利用しているので計算結果が誤っている(指数分布なら1年で6.57%、今後1ヶ月は0.56%)。

10. これが文系?

そう、初歩的な文系のアプローチ。社会科学では確率・統計は良く用いられる。そもそも統計学はローマ時代の国勢調査から生まれたそうだ。

2 コメント:

satoshi さんのコメント...

お伺いします。7回の平均をとった場合の計算式で、最初を除く過去6回の地震発生年の1年あたりの地震の確率はいくつとなりますか?

uncorrelated さんのコメント...

>>satoshiさん
コメントありがとうございます。
次のエントリーに計算結果を掲載してみました。1年あたりの確率0.8%ぐらいで発生している事が多いようです。
http://www.anlyznews.com/2011/05/blog-post_14.html

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