ウサーマ・ビン・ラーディンは死んだが、まだ倒されているわけではない。つまり、中東の反米主義テロリストが活動を続けるための土壌は、本質的には変わっていない。
しかし、5月19日から米オバマ大統領が、次の作戦を開始したようだ。イスラエルのネタニヤフ首相との階段前に、イスラエルの領土を1967年の状態に確定し、パレスチナ国家の樹立を進める方向性を明確にした演説を行った。ネタニヤフ首相との会見前の45分を超える演説は、米国として中東和平に向けた方針が固まっていることを強く示す意味がある。
演説の動画は公開され、全文が報道されているのだが、米国は中東の民主化を支援を約束し、イスラエルの国境線を1967年の状態に戻すことを提案している。
演説では、現状は不安定で、最終的には崩壊すると明言されている。
パレスチナとイスラエルの衝突は交渉で解決可能であり、パレスチナは生存権を、イスラエルは安全保障を求めていると認識されている。
イスラエルとパレスチナが、相互交換同意を含めた1967年のラインをベースに交渉を進めるべきだと提案されている。
1967年ラインに立ち戻ることで、初期の困難はあるが、何十年後かのあるべき世界を追求する事ができると謳っている。
中東史に詳しくないと1967年ラインが何か分からないかも知れない。以下の図の白い領域がイスラエル領、緑の領域がパレスチナ領となるが、右から二つ目の1949-1967の領土に戻すことになる。
唐突な提案な気がするが、鳩山氏とは違い慎重に計画されている。1967年ラインに関してはEU各国やロシアと合意がされていると言われ、イスラエル国内でもオルメルト元首相らが支持をしているそうだ。過激派組織ハマスも、1946年や1947年の国境線に戻すことは現実的ではないと認識していると考えられる(パレスチナ情報センター)。
『初期の困難』は、パレスチナ領にある入植地の解体と、パレスチナ側に建設されている分離壁の撤去となる。入植者数は50万人を超えており、東日本大震災の避難者数を越える人数が、住居を失う可能性があるという事になる。ネタニヤフ首相は、即刻、オバマ提案に反発する声明を出した。
ウサーマ・ビン・ラーディンを思想を同じくするテロリストが新たに生まれれば、ビン・ラーディンの死が対テロ戦争の勝利を意味するとは言えない。そして、パレスチナ問題に関して米国がイスラエルに加担しているように見える事が、根強い反米感情の要因になっており、テロ組織が支援者を得られる理由になっていると考えられている。つまり、パレスチナ問題を解決することで、反米感情を沈静化しない限りは、対テロ戦争での戦略的勝利は得られない。
パレスチナ国家の樹立による中東和平の実現は、ブッシュ前大統領から明言されているため既定路線ではある。しかし、イスラエルの領土拡張政策に関しては、国連の非難決議を米国が拒否権を発動して食い止めてきた歴史がある。ゆえにブッシュ前大統領はイスラエルの拡張政策を消極的に支持してきたと考えられ、国際司法裁判所に違法だと認定されている分離壁の建設などが行われる背景となっていた。もっとも、オバマ大統領はこれまでも批判的であり、今回の提案は急激な方針転換では無い。
中東の民主化運動とウサーマ・ビン・ラーディンの暗殺は、イスラエルに譲歩を迫るタイミングとしては理想的なように思える。イスラエルが譲歩するかは分からないが、周辺国の近代化も徐々には進んでいる。米国の支援無しにイスラエルが中東に存在し続けることが困難になりつつある事は、ユダヤ人も強く認識しているはずだ。
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