90年代の米国の電力小売市場自由化による電力料金への影響を分析した、ダラス連銀のあるディスカッション・ペーパー(Swadley and Yücel(2011))が話題になっていた(himaginaryの日記)。
実の所、電力自由化で電力料金が下がるかどうかは、化石燃料価格の高騰などもあって良く分かっていなかった。自由化後に、電力料金が値上がりした事例も報告されている(USATODAY.com)。ゆえに、電力自由化の効果を示した数少ない論拠となる論文だ。
1. 手堅い分析手法
新規参入者市場シェア、総販売電力、石炭・LNG価格、水力発電・原子力発電所の発電量比率、厳寒日日数、猛暑日日数、参入規制、価格規制と、家庭向小売電力価格の関係を見た研究だ。AR(2)のDynamic Panelモデルで2Step-GMMで推定され、州ごとの固定効果、需要と価格の同時性、系列相関は適切に排除されている事になっている。計量テクニシャンが書いた論文だ。
テクニカルな問題には注意が払われている。説明変数間の新規参入者市場シェアと参入規制・価格規制の内生性は、1Stepじゃなくて、2Step-GMMを使っているからコントロールされているよとか、頑強性テストはしているよと書いてある。もちろん価格も実質化されているし、概ね信頼性がある研究と言えるであろう。
2. 化石燃料価格の変動効果を除けば、電力小売価格は下落
分析結果は、新規参入者シェアが多いと電力価格が下がり、参入規制が無くなると最初は価格があがるものの、長期的には下がると言うものであった。米国の電力小売市場自由化によって、電力料金が下がったと言える。なお、電力小売市場の分析なので、発電所からの卸価格の分析ではない。
電力自由化で安定供給に問題が出たとか、カルフォルニア州が不適切な規制を導入し電力会社が倒産したとか色々と言われているが、化石燃料価格の変動で見えづらくはなっているものの、電力小売市場自由化の効果はあるようだ。電力小売市場自由化論者には心強い研究となる。
3. 日本で発電部門と送電部門を切り離すべきかは、また別の話
枝野官房長官が、観測気球だと思うが、発送電分離を示唆したので、東京電力から発電部門と送電部門を分離しようという主張がたまになされている。電力供給価格の引き下げから見ると、この主張をサポートする研究にはなる。
しかし、発電部門の安全性が増すかとか、電力の安定供給が可能になるかは、この研究ではわからない。発電部門の規模生産性についての分析も行われていない。販売価格が下がってはいるが、コストが下がった事を直接意味するわけではないからだ。
また、一部で期待されているように原発が無くなるとは言えない。電力自由化を行った米国や英国でも原発の稼働率が増したり、新規原発の計画が持ち上がっている。2003年の時点では、米国の原発が好調で、英国のが電力価格が原因で不調であった(IEEJ(2003))が、2003年の時点から石油やLNG価格は上昇しており、電力価格も上昇傾向にある。
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