2011年5月25日水曜日

電力源別発電量で見る“見かけ上の相関”

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原子力発電所のために揚水発電が必要という主張がある。原発は需要に応じた電力生産が効率よくできないので、揚水発電が無いと運営できないと言う理屈だ。電力会社が公に発言したことは無いが、なぜか大島堅一・立命館大教授がそう主張している。

以前のエントリーのコメントで、その主張の支持者から、年間発電電力量構成の推移(一般電気事業用、発電端)を引用しつつ、「原発の発電量と揚水発電の発電量と強い相関がある」と言う指摘があったのだが、統計的には裏づけにならない事を指摘しておきたい。

引用されたデータを良く見てみよう。まず、揚水発電の発電量は、ほぼ全ての発電電力源と正の相関がある。次に、(揚水発電の発電量) = β(他の電源別の発電量) + εという回帰式に当てはめると、原子力発電量の係数は、石炭火力やLNG火力の係数よりも小さくなっている。支持者の理屈では、原子力の比率を増やすよりも、火力の比率を増やす方が揚水発電所が必要になっていたという事になる。

揚水発電量と、その他の発電量との相関関係
発電方式 相関係数 回帰式切片
一般水力 0.708 0.118
石炭火力 0.824 0.070
LNG火力 0.948 0.053
石油火力 0.191 0.059
原子力 0.979 0.042
全体 0.968 0.013

特にLNG火力は、発電所の起動が早く揚水発電が比較的不要なのだが、発電量ベースの相関関係を見ると最も揚水発電が必要な発電源となってしまっている。

このような理屈に合わない分析結果となってしまっているのは、データに“見かけ上の相関”があるからだ。理論的・構造的な背景を抜きに、データの一部分だけで主張を行うと、このように足元が弱い分析となってしまう。

なお、揚水発電の発電量は2000年(原発は2002年)が最も多いのだが、その年は全体の1.33%しか発電していない。真夏の昼間の1時間で、一日の電力需要の8%を消費する事を考えれば、1.33%は臨時調整用にしか過ぎないことがわかる。昼間と夜間の需要量の差は倍程度あるので、昼夜の発電量の調整能力はほとんど無い。東京電力のウェブページでは、「昼間の電力需要のピーク時に活躍する発電方式」だと説明している。昼間と夜間の電力需要差を埋めるとは書いていない。つまり、揚水発電は予想外の電力ピーク需要に緊急で対応するための施設だ。他の発電所故障などに備えた、バックアップ的な意味もある。

ところで大島教授の議論には、もっと初歩的な落とし穴がある。揚水発電の発電量は、原発設備を5%増やして常時稼動し、余分な電力を捨てておけば十分にカバーできる量に過ぎない(出力調整運転を行っても良い)。現在の原発の発電コストからすれば、揚水発電を準備するより、原発を余分に建設するほうが経済的だ。本当に揚水発電所が高コストなので原発も高コストだと考えているのであれば、なぜ大島教授が揚水発電の建設反対と、原発の増設を主張して来なかったのは疑問が残る。

6 コメント:

shou さんのコメント...

私のコメントに反論するために記事まで書いていただき恐縮です(皮肉ではないです)。

先ず、相関については補足のために示したもので、本来の根拠は原発が出力調整をしないことです。私自身相関が因果関係の十分条件とは考えていません。また、私が示したのは火力全体と原子力の比較なので、その観点からの反論を期待します。

揚水発電の目的については以下のページを見る限り、
http://www.kyuden.co.jp/effort_water_omarugawa_omaru04
http://www.hepco.co.jp/ato_env_ene/energy/water_power/about_pomp.html
需要調整であることがわかります。夜間に供給が需要を上回る原因は原子力だけではありませんが原子力が調整不可であることが大きな要因であることは間違いないでしょう。
もし、原発を調整可能なものに置き換えれば、揚水発電が不要になるのは明らかです。以上のことから、揚水発電のコストを原子力発電(正確には出力調整のできない発電)のコストに加えることは妥当と考えます。

揚水発電を原発に置き換える案ですが、ピーク時のみ発電する揚水を置き換えるために一日中発電することが経済的なのか疑問です。分析が足りないのでは?

uncorrelated さんのコメント...

>>shou さん
コメントありがとうございます。
参照いただいた九州電力のページにも、「昼間のピーク時間帯は」と書いてありますよね。
また、原子力は一日中稼動している事、火力発電でほとんど調整している事も分かります。火力発電も数十分から数時間、出力調整にかかるので、もっとレスポンスの良い揚水発電が必要になるそうです。

http://non-chan.sakura.ne.jp/Okkiimono/Tower/Tower_01.htm

> ピーク時のみ発電する揚水を置き換えるために一日中発電することが経済的なのか疑問です。

大島氏の分析だと、2000年以降は、原子力の発電単価が7.29円/kWh、揚水発電の発電単価が41.81/kWhです。
また、揚水発電の発電量は、現在の原発出力の5%未満なので、設備を1.05倍すれば揚水発電の発電量を賄えます。発電単価から考えれば、5倍にしても問題ないわけですが。

どちらにしろ、原子力の比率が50%未満の状態で、火力発電とミックスしている間は、昼間と夜間の電力需要差に対応するのは大きな問題では無いと思います。

shou さんのコメント...

返信ありがとうございます。

ご指摘通り、火力発電は出力調整をするため、出力調整不可の発電とこれを置き換えれば夜間の需給ギャップは解消されることがわかります。また、レスポンスについてですが、記事やコメントのページでも示されいるように、ガスタービンならば大きな問題にはなりません。つまり、原発をガスタービンに置き換えれば揚水発電は殆ど不要となります。

揚水発電は年間での発電量は少ないですがピーク時の発電量は多いと考えられます。揚水のピーク時稼働率を控え目に(東電に限ればさらに高い実績があるらしいが)50%としても以下の資料の直近の数字に基づけば

http://www.enecho.meti.go.jp/faq/electric/images/data01.pdf

発電量は1,233万kWになります。これは、稼働率70%を仮定した原発総発電量の約37%に相当します。つまり、ピーク時の発電を原発で置き換えるのなら、設備を1.37倍にする必要があります。また、夜間に大量の電力が捨てられるのも確実です。大島氏によれば、2000年代の揚水を足した場合の原発コスト増加分は1.18/kWhですが、上記のコストがこれを上回ることは明白でしょう。

原発の比率が低けれ需給の差は問題ないとする主張につては、全くその通りだと思いますが、揚水が必要とされる現状を見る限り、そのラインを超えてしまっているのだと思います。

uncorrelated さんのコメント...

>>shouさん
> 設備を1.37倍に
1.37倍だと、9.99円/kWhぐらいですね。また、実際には原発の5%も使っていないので、過剰な揚水発電所の設備が大量にあることになってしまいますね。

> 揚水が必要とされる現状を見る限り
火力や水力でも必要になりますよ。原発が無い時代でも揚水発電はありました。
そもそも原子力発電所と、揚水発電が必要性に関連が認められません。

統計的は本記事の通り、原発と揚水発電の関連は無いです。
発電量的には、原発の発電量は一日の最低需要に届かないので、昼間と夜間の調整は不要です。火力発電の需要への追随性が良いのであれば、何も問題は無いはずです。
火力発電所も、石炭火力などは起動から最大出力まで数時間はかかるようなので、揚水発電は必要なようです。また、歴史的には、火力・水力発電の時代にも揚水発電は存在します。

shou さんのコメント...

早い返信ありがとうございます。

>過剰な揚水発電所の設備が大量にあることになってしまいますね
資料を見る限りその通りです。それもコスト高の理由でしょう。

>そもそも原子力発電所と、揚水発電が必要性に関連が認められません。
何度も言いますが、需給調整です。

>火力発電所も、石炭火力などは起動から最大出力まで数時間はかかるようなので、揚水発電は必要なようです。
早朝に起動すれば、昼には最大ですね。

>発電量的には、原発の発電量は一日の最低需要に届かないので、昼間と夜間の調整は不要です。
原発以外にも調整の難しい発電所はあります(石炭など)。しかし、全く調整のきかない原発が一番足を引っ張ているのは明らかです。

uncorrelated さんのコメント...

>>shouさん
> 早朝に起動すれば、昼には最大ですね。
一日の需要は刻々と変化をしているので、火力でも厳密に対応させるのは無理みたいですよ。

> 全く調整のきかない原発が一番足を引っ張ているのは明らかです。
全ての発電方式が、同じように需要に追随する必要はありません。
一日の最低需要よりも原発の電力供給量が少ないわけですから、火力発電所で需要に追随すればよいわけですよね。

しかし、火力発電所でも需要に完全に追随できないので、揚力発電所が必要なようです。火力発電所に100%なったとしても、揚力発電所は必要と言うことになるのでしょう。

ゆえに、揚力発電のコストを、原発のコストに加えるのはナンセンスと言うことになります。

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