菅首相が、設置可能な1,000万戸に太陽光パネルを設置する方針を、なぜかG8で打ち出した(産経ニュース)。
予算的に財政負担が大きく、さらに得られる効果が薄い政策だ。現行制度をベースに考えると、年間に1兆6000億円の財政負担で、電力需要の3.9%を賄うことになる。
1. 家庭用太陽光発電システムの経済性と発電能力
家庭用太陽光発電システムに経済性は無い。平均的な規模で240万円ぐらいの導入費用がかかり、10年程度は稼動するようになっているが、42円/kWh(2011年4月以降)という高額な余剰電力の買取によって、導入メリットがあるに過ぎない。具体的な補助金額は不明だが、一戸あたり平均20万円程度は売電しているようだ。電力会社の発電単価の5倍程度で買い上げているようなので、年額16万円が補助金となる。1,000万戸だと、年額1兆6000億円だ。
発電能力も多くは無い。家庭用太陽光発電システム(3.29~4.3kW)の予測年間発電量の平均は4,234kWhだ。1000万戸に設置すると、42,339GWhの年間発電量となる。年間総需要は1,082,014GWh(2008年)なので、電力需要の3.9%しか賄え無い計算になる。
追記(2011/5/29 20:00):新築住宅に3.5kWシステム約185万円を設置した場合に、現在得られる補助金等は163万円(補助金・減税が約43万円、グリーン電力価値・自治体補助約20万円、売電収入約100万円)となっている(経済産業省)。
2. 2020年までに現在の3分の1のコストに・・・どうやって?
もちろん技術革新は、この試算を切り崩す。菅首相は2020年までに、現在の3分の1のコストにする目標を立てた。1/3になれば、恐らく補助金も必要ない。コストが半減し、変換効率が倍になる計算だと思うが、過去の変換効率の向上ペースや、過去の価格低下のペースでは実現できない数字だ。過去10年間を見る限り、設置費用が急激に低下しているわけでもないし、変換効率も20%も改善していない。
パワコンなどの交換部品が安くなって稼動年数が上がるか、設置が簡単になり50%近くを占める工事費などが安くなるなどは期待できるが、あと9年間でコスト1/3は、目標としてはともかく、想定としては無理があるように思える。
追記(2011/5/29 20:00):新エネルギー財団のデータによると2002年の1kWあたりのシステム価格は71万円であり、経済産業省のモデルケースだと52.9万円~64.3万円になる(平成23年度の補助金説明会での値もほぼ同一)。多く見積もっても9年間で25%のコスト削減しか達成できていない。
3. 年額1兆6000億円の金額の大きさ
1兆6000億円という金額は、2010年の原油等の輸入額17兆3979億円の9.2%となる数字だ。10年で見れば16兆円の負担になるわけで、東日本大震災の復興費用14.6兆円を超え、福島県の県内総生産の約2年分の値になる。子ども手当の満額支給の4兆5000億円、農業者戸別所得補償制度の1兆4000億円を推進してきた民主党政権には特に大きな金額に感じられないのかも知れないが、財政負担が大きく、経済効率性を損なうことにはなる。
4. 思い付きだとすれば、性質が悪い
東京工業大学の柏木孝夫教授も実現のためのハードルは相当に高いと述べている(SankeiBiz)。これだけ財政負担が大きい政策決定を、国際会議で思いついたように発表するのが理解できない。目指すという宣言だけで実行する気は無いのかも知れないし、2020年には首相では無いからどうでもいいと考えているのかも知れないが、数字の裏づけが無い重大決定は性質の悪い冗談にしか聞こえない。ルーピーと呼ばれる首相は、歴史上は一人いれば十分だ。エネルギー問題は国の基本政策なのだから、もっと考え抜いた方針を聞かせて欲しい。
6 コメント:
「具体的な補助額は不明だが」と書いておけば、あとは何でもよいのでしょうか。
現時点では、国は設置に対する補助金は出していますが、買い上げへの補助金は出していません。
「財政負担が増える」のではなく「電気量が上がる」ではないのでしょうか。
算出過程も不明な「財政負担1兆6000億円」だけが、 twitterで一人歩きしています。
それが目的で、記事を書いているのでしたら、否定はしませんが。
>>santa301さん
コメントありがとうございます。
補助金額は、太陽光パネルの設置事業者のモデルケースによる、余剰電力買取金額を参考にしました。
太陽光発電の余剰電力買取制度で、太陽光発電促進付加金として電気代に上乗せされていますね。
同種の制度を利用することにすれば、電力料金に上乗せされる事になります。
なお、年額1兆6000億円の数字に固執する気はありません。多額のコストが発生し、どこかへ転嫁する必要がある事を喚起する目的で、このエントリーは書いています。
本当は電力需要の3.9%にしかならず、16.1%を風力発電などの他の再生可能エネルギーで埋めないといけない点も注目して欲しかったのですが、コスト面が注目されているみたいです。
私も、急速な太陽光パネル設置は、現実的ではないと思っています。
発電量を調整できないので、いずれバックアップ設備が必要と思われるからです。
できれば、算出の根拠も一緒にブログに書いていただければ、ありがたかったです。
もう一つ、「財政支出」と「電気料金」とでは、まったく意味合いが変わると思います。
財政支出→新たな税金がかかる(取られ方は不明)
電気料金→電気を使う人が、使用量に比例して負担
→電気の総使用量の抑制(節電)
すでに、多くの企業が、「電力不足対策」と言いながら、「値上げを見越した電気料節約」をはじめています。
>>santa301さん
> いずれバックアップ設備が必要
4%弱ぐらいで昼間発電しているので、そこは大きな問題は無いと思います。
1兆6000億円の負担方法ですが、家庭用太陽光発電システムは不要だと思っている人も、その設置負担を負うと言う意味では税金みたいなものです。旧国鉄の負債整理のためにかけられた特別タバコ税の同類ですね。
日本の電力料金は合計で14兆円ぐらいだと思うのですが、12%程度の値上げで済むと思います。
何はともあれ、電力料金や電力確保が理由で、産業の空洞化が発生しないようにはして欲しいです。
>uncorrelated さん ていねいな回答ありがとうございます
>「一戸あたり平均20万円程度は売電しているようだ。」
建前からすれば、余剰電力を売っていることになるので
→1000万戸は、消費電力量>発電量
>「電力需要の3.9%しか賄え無い計算」
には、ならないような気がするのですが。
いずれ、菅総理の思いつきだけなので、すぐに収束するとは思いますが。
>>santa301さん
> →1000万戸は、消費電力量>発電量
> 「電力需要の3.9%しか賄え無い計算」には、ならないような気がするのですが。
昼間、発電量が多く家人が不在のときに、ソーラーパネルで発電した電力を電力会社に売電する仕組みです。
一日トータルで見ると、消費電力の方が多いわけですが、時間帯によっては売電できるわけですね。そして、夜間の電力代よりも、昼間の売電代の方が圧倒的に高額なので、その差額が「補助金」となるわけです。
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