2011年3月28日月曜日

闇の勢力と夢の発電技術

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闇の勢力(政府、電力会社)が夢の発電技術の開発を阻害し、原発の普及を促進しているというブログの人気エントリーを二つ見かけた。「原発がなくても大丈夫な理由!」では、太陽光・風力・潮力発電、「日本が今後採るべき電力供給戦略について」では、地熱発電(高温岩体発電)が夢の技術となっている。

つまり、これらのブログは、政府と電力会社が再生可能エネルギーを用いた発電方法を阻害し、原発を推進していると主張している。本当であれば興味深いが、コスト、立地条件、潜在資源量、技術的成熟度、発電可能時間帯の観点からは妄想と言わざるを得ない。

1. コスト

30年前の原発の設置許可申請書の発電原価で原発コストを評価した小飼弾氏のブログ・エントリが理由で原発の発電単価が誤解されたのだと思うが、2003年の時点で原発は火力発電所よりも低コストで、2011年の今はその差はもっと開いている

再生可能エネルギーのコストも、原発より安いとは言えない。化石燃料価格の高騰で、再生可能エネルギーのコストは相対的には安くなっている。太陽光発電、太陽熱発電の単価も安くなっている。しかし、原子力発電に傾斜したフランス(原発依存率76.4%)と、風力発電に傾斜したドイツ(風力依存率6.4%)の電力料金は、前者の方が4割程度安い。英国でも風力発電は採算が取れていない

2. 立地条件

風力・潮力発電・地熱発電は、立地条件が限られる。

まず風力は、世界的に風力発電所の風力不足は問題になっている。例えば、英国の風力発電所の半数以上が風が十分に無いところに立地しており、日本でも京都府伊根町で稼働率(=運転時間/(運転日数×24時間))10~12%(目標21.7%)でしか無いことが判明し問題になっている。さらに強風が吹くと風力タービンが破壊されると言う問題もあるため、風が強いところにも安易には設置できない。潮力発電も、大規模な施設を建築可能な場所が必要であり、設置箇所は限られる。地熱発電は、現在のタイプでは地下水の存在や、地下の構造に依存する。

3. 潜在資源量

立地条件によるものだが、再生可能エネルギーは潜在資源量が少ない。

太陽光発電は、完全に普及したとしても発電量の10%程度しか補えないと考えられているそうだ。現在の日本の80箇所以上の火力発電所を風力発電で置き換えるには、12万箇所ぐらいの風力発電所が必要になる。

地熱発電は従来型は立地条件が厳しく、まだ研究中の高温岩体発電でも2,900万kW/hの潜在エネルギーしかない。これは日本の電力の2.5%にしか過ぎない。NEDOの試算では、開発可能資源賦存量は247万kWで、福島第一原発の56%程度となっている。

全部の再生可能エネルギーを総動員しても、電力供給の30%を占める原子力や、61%を占める火力に及ぶ可能性は無い。

4. 発電可能な時間帯

再生可能エネルギーは需要にあわせて調整が難しいため、─ 現在の技術では ─ 時間帯別供給量を需要にあわせるのが難しい。

電気はためることができないので、発電は受給をあわせつつ行う必要がある。この意味では火力発電所が最高で、原発と地熱発電は常時発電が可能なので次点、潮力発電は月齢で発電量を計算できるので何とか使え、天候任せの風力・太陽光/熱発電は補助的な役割しか担えない。

5. 技術的成熟度

立地条件が緩い、洋上浮体風力発電と高温岩体発電は、まだまだ研究段階だ。いつ実現されるかの目処は立っていない。洋上浮体風力発電は、2015年に実証実験に入るとされている(ECO JAPAN)。地熱発電所(高温岩体発電)は、新エネルギー・産業技術総合開発機構のプロジェクトは2003年で頓挫し(NEDO)、他国でも研究開発段階だ(NEDO)。洋上浮体風力発電や高温岩体発電の発電コストが安いと断言されたとしても、まだ1基も日本に実証プラントが存在しない段階だ

6. まとめ

政府や電力会社は、安全管理が難しく、世論に厳しく批判される原子力発電所は、他に適当な発電方法があれば、特に固執したい理由はない。特に電力会社は営利企業なので、原発を推進している理由は、将来的に最も発電原価が安くなると見込まれているからに過ぎない。闇の勢力(政府、電力会社)は、本当は安くて安全なエネルギーが大好きだ。

しかし、コスト、立地条件、潜在資源量、技術的成熟度、発電可能な時間帯の観点から考えると、再生可能エネルギーは心もとない。それでも潜在的な技術革新の可能性のある、洋上浮体風力発電や、高温岩体発電は夢があって、プロトタイプを作成する価値はあると思う。しかし、将来を賭けるにはまだ早い。現実的に発電量と費用の計算ができる未来の発電方法は、原子力しか残されていないのが現状だ。

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