2015年1月24日土曜日

アベノミクスで雇用が増えたと言えるのか?

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アベノミクスで雇用が改善されたと言うリフレ派の人々の話を見かけることがある。就業者数の推移を指して、ある時点から減少から増加に転じたことを指しているのだが、アベノミクスの効果と言うのは無理がある。(1)グラフをよく見ると2012年9月が底になっている。(2)雇用は景気の遅行指数である。(3)景気一致指数の有効求人倍率を見ると、2009年の後半からずっと改善し続けている。

1. 就業者数が増加に転じるのは2012年9月

アベノミクスがいつから始まっているかについては、三案あるようだ。(a)野田総理が解散総選挙を決定した2012年11月14日、(b)第二次安倍内閣が発足した2012年12月26日、(c)黒田バズーカこと異次元緩和が公表された2013年4月4日。(a)と(b)は無理がある気もするのだが、政策が何も無くてもインフレ期待が高まれば良いと言うことらしい。

就業者数の推移を見てみると、2013年1月以前と以降で大きく違うように見えるかも知れない。しかし、転換点を統計的に、つまり最尤法で探ると2012年9月になる*1。アベノミクス以前に就業者数は増加に転じた可能性が高い。95%信頼区間でみれば(a)と(b)以降の可能性は残るが、雇用は景気の遅行指数である事が問題になる。

追記(2015/01/31 19:45):ask.fmで、分析期間の就業者数は単位根のある非定常過程なのだから就業者数の階差をとって、ダミー変数で回帰すべきだと指摘された。これを行なうと最尤推定で転換点は2013年1月になるのだが、ダミー変数の有意性がなく、つまり転換があったか否かの検定に失敗する。まぁ、もう少しフォーマルに分析する必要はあるであろう。

2. 景気一致指数の有効求人倍率はずっと改善

消費税率の引き上げ後も雇用の改善が続いていると言うと、リフレ派の人々は雇用は景気の遅行指数と指摘する。確かに景気動向指数では、完全失業率は遅行系列に分類されている。四半期GDPと完全失業率の関係を見ても、影響が出終わるまで半年から一年ぐらいはかかるようだ*2。ならば一致系列の、有効求人倍率を見るべきであろう。

V字なのかν字なのか、ともかく急激に落ち込んで、急激に回復している。2009年の後半からずっと改善し続けている。さすがにアベノミクスによってトレンドが転換したとは言えないであろう。遅行指標である就業者数のトレンドの変化は、一致指数の有効求人倍率に追随するものだと考えれば、(a)から(c)のどの開始時点をとってもアベノミクスの成果とは言えなくなる

3. 他の指標もアベノミクス以前に転換

民間投資を見ても2010年ぐらいから回復してきている*3し、東日本大震災の影響があったとは言え、銀行貸出量も2011年6月が底になっている*4

4. アベノミクスの失敗は意味しないが・・・

注意して欲しいのはアベノミクス以前から景気指数が改善されて来た事は、アベノミクスの失敗を意味しないことだ。アベノミクスが無ければ景気が既に腰折れていた可能性も、そうでない可能性もある。第二次安倍内閣が発足してから、消費増税後も含めて、雇用が増え続けていることは事実だ。

ただし、そもそもアベノミクスが何なのかと言うことについて、見解の一致が見られていない。開始日が(a)や(b)と主張する人々は、金融政策でも財政政策でもない何かと主張している事になるのだが、アベノミクスとは一体何なのであろうか?

*1関連記事:傾向が変化したときの折れた予測線の描き方

*2関連記事:雇用はどの程度の遅れてくる指標?

*3政府投資は横ばい、民間投資は2010年から徐々に回復している。

*4銀行貸出は、個人(住宅・消費・納税資金等)、地方公共団体、電気・ガス・熱供給・水道業への融資増加が大きいが、2011年には底を打っている。

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