2011年10月28日金曜日

男女の”平均”賃金格差は是正すべきなのか? ─ 社会学者・小宮友根の愚問

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社会学者・小宮友根氏の小倉秀夫弁護士への質問『男女間の平均賃金格差についての小倉せんせのご評価をお聞かせください。「不正だ・どちらかといえば不正だ・わからない・どちらかといえば不正ではない・不正ではない」。はいどれ。』が愚問である点を明確にしたい。つまり、小倉氏の言う「抽象的」の意味を確認したい。

現在の日本では男女雇用機会均等法があるので、採用や待遇を性別(男性/女性)で差別することは合法的にはできない。ゆえに表向きは性別では無い理由で、採用や待遇は決定されている。しかし、実際には賃金格差は存在する。男女で職種、役職、年齢、成績、職歴、勤続年数、労働時間が異なるからだ(厚生労働省 - 男女間の賃金格差レポート)。これらの賃金格差の要因が現れる理由は、例えば以下の四つが考えられる。

1. 男女の選好の違い
夫の稼ぎが良いと働かない主婦は多数いる(ダグラス・有沢の法則、総務省統計局から転載の下図参照)し、給与や昇進機会の無い役職で満足する女性も少なくない。つまり、女性の多くが無職や低賃金を選好している可能性を否定できない。子供が生まれた家庭で、夫よりも妻が育児を担当するのは、その家庭において合理的な判断である可能性はある。

追記(2011/11/08 14:00):女性の進学率や就業率が男性を上回る米国では重役における女性の比率が低い事が指摘されているが、最近のアンケート調査では女性は余暇を楽しむ柔軟な就業形態を望んでおり、出世機会に恵まれない事や、家事・子育ての負担が大きいわけではない事が示唆されている(CBS News)。

2. 男女の能力差
男女に能力差があり、それが採用機会や待遇につながっている可能性は、少ないもののある。経済学的に言えば、古典派の第一公準と言って賃金は労働の限界生産物に一致する。女性の生産性は低いかも知れない。米男子プロゴルフ・ツアーに女性ゴルファーは参加しても予選通過にも苦戦していたし、男女で知能指数が異なると言う研究もある。男女で数学的能力に差は無い事なども報告されているので、賃金に反映されうる能力差があるのか疑問はあるが、可能性としては一応ある。低学歴者の男女格差が大きいのは、肉体労働等の影響が強いかも知れない。また、男女の選好の違いと説明する方が適切かも知れないが、男女の大学進学率に大きな差は無いものの、進学する学部には依然として男女差があるので、女性が企業の求める教育を受けていない可能性もある。
3. 歴史的な職歴格差
歴史的な理由も忘れてはいけない。男女雇用機会均等法の1986年の施行、1999年以前の改正以前に労働者になった世代では、差別された時代に職歴を積み重ねているので、結果的に低い賃金に悩まされている。年齢が高まるにつれて男女間賃金格差は次第に高まる傾向があるのは、歴史的な職歴格差も影響していると考えられる。
4. 差別的な労働市場
男女で賃金格差が無いのかと言うと、そういうことは無い。採用や昇進には印象評価があるのは間違い無いので、雇用者側の女性差別が入り込む余地は多い。雇用者側が恣意的に、採用や人事で女性差別をしていたら、賃金格差に結びつく可能性がある。

差がある事よりも理由の特定が重要だ。(1)と(2)は配分効率性の観点からは是正すべきかは疑問がある。(3)は恐らくあるのであろうが、是正が可能かは分からない。男女雇用機会均等法は2007年に再改正されたことからも、(4)に関しては是正すべきだと考えられている。小宮友根氏の質問は、まさに愚問としか言いようが無い。

つまり平均賃金格差があっても、その理由は自明ではない。「男女格差のデータは女性差別を意味するか?」でも説明したが、加えて言えば、佐野(2004)阿部(2005)が男女賃金格差の分析を行っていることからも、まだ明確ではないと言える。なお、佐野(2004)も(3)歴史的な職歴格差を考慮していないし、阿部(2005)は(1)男女の選好の違いを考慮していない。詳細なマイクロデータが無いと因果関係を掴めないので、研究レベルでも限界があるのが現実であろう。

もし労働市場が差別的で、それが所得格差に結びついていることを実証した上で、男女の賃金格差は是正すべきかを問いかければ、大半の人は賛成せざるをえない。労働経済学者が取り組んでいるアプローチはこういう事だが、社会学者が取り組んでいることは教条主義的に差別の存在を訴えているだけのように感じる。

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