濱口桂一郎氏の「日本の雇用と労働法」を拝読したので、簡単に紹介したい。
1章から5章までは、雇用契約をジョブ型とメンバーシップ型に大別した上で、その観点から日本の労働史を、主に労働法と判例から辿る構成となっている。6章がやや異質で、現在の労働市場の問題を紹介している。記述は平易だ。法律の本と言うよりは、歴史の本のような感覚を受ける。労働市場は最も重要な経済部門である事を考えれば、日本経済史を理解するのに役立つように感じる。
ただし経済史のテキストと考えると、定性的な記述は充実している反面、定量的な情報が不足している感じは否めない。例えば大企業と中小企業で採用方法に差があったと言われても、大企業と中小企業の就業者数の比が分からないので、どちらが一般的な話であったのかが想像できない。もちろん濱口氏の狙いとは異なる読み方であるし、定量的に説明した書籍は他にあるので、それをあわせて読めば良いのだと思う。後は瑣末な点だが、本書は構成上、何回も歴史を辿るので読み進めていくうちに時系列が混乱してくる。1章から5章の章末に年表が欲しい。
今も昔も諸外国での激しい労働争議のニュースは頻繁に流れてくるわけだが、それを考えるとしてもベースになる知識は必要だ。日本人であれば、日本の労働市場で何が起きて来たのかの歴史的経験がそれになるべきであるが、意外に自国の事でも知らないものだ。濱口氏の「日本の雇用と労働法」は、手短に日本の労働史を理解するには丁度良い本なので、暴徒と化した外国人労働者に興味を持った門外漢が読むのに適していると思う。
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