2011年10月27日木曜日

男女格差のデータは女性差別を意味するか? ─ 社会学者・小宮友根の誤診

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所得や就業率で男女不平等を表す統計データは多々ある。しかし、それが女性差別を表すと言えるかは、厳密には難しい。男女差別が無くても、もし男女で能力差や選好の差があるのであれば、男女格差が観測されるからだ。データ分析としては良くある問題ではあるが、どうも問題である事を理解できない社会学者が多いようだ。

例えば社会学者の小宮友根(@frroots)氏が、ブログの「2.1. 性別分業の影響」で説明している、潜在的労働力率と就業率の差(以下、就業率ギャップ)が、女性差別を意味するのであろうか?

1. 潜在的労働力率は求職していない人を含む統計

潜在的労働力率の定義に注意する必要がある。(就業者数+完全失業者数+就業希望者数)/人口だ。完全失業者と就業希望者が別枠なのに注意しよう。潜在的労働力率には、就職活動を行っていない就業希望者が含まれている。就職活動中になる完全失業者率では男女の差は無い時事ドットコム)。

完全失業率に差がなく、潜在的労働力率に差があると言うことは、求職活動を行っていない就業希望者が女性に多数いると言う事なのは明確だ。男性は積極的に求職活動を行い、女性はそうではないと言う、男女の選好の違いを示している可能性の方が高い。少なくとも潜在的労働力率の違いは、採用者が女性を差別している事を示唆しない。

2. 女性の家事分担率の高さも、その選好が理由と言えなくも無い

小宮氏は、女性就業希望者の非求職理由に「家事・育児のために仕事が続けられそうにない」と言う事を、女性に就業希望者が多数いる理由としている。小宮氏は女性の家事分担率が高い事が理由で、これを女性差別だと考えているようだ。しかし、ここでも女性の選好が問題になる。

それらの女性就業希望者は、そもそも独身生活を貫いて家事・育児を回避する事を好んでいない。また、家庭で夫か妻のどちらかが育児を行う必要があったときに、それを妻が担当することが好まれているとしか言えない。夫婦間で能力差があって、夫の方が稼ぎがある事は十分ありえる。自分よりも稼ぎの良い男性と結婚したい女性は少なくない比率のはずだ。女性の92.1%は経済力も理由に配偶者を選択するが、男性は30.2%でしかない(国民生活白書、図1-2-5)。高収入夫の妻ほど就業率が低いダグラス・有沢の法則は近年の日本でも観測される事が報告されている(総務省統計局)。

3. 待機児童数は、女性の家事分担率の影響が低い事を示唆

他にも保育所の数が不足しているので、女性の労働供給が十分ではないと考える人がいるかも知れない。しかし、2009年の待機児童数は25,484人(厚生労働省)で、女性労働力人口は2771万人(20~34歳は810万人、労働力調査長期時系列データ)だ。1児につき就業希望の1母親がいるとしても、出産適齢期の就業希望者を0.3%程度押し上げる効果しかない。

4. 国際比較による女性就業率も、女性の選好と言えなくも無い

本題とはずれるが、指摘があったので説明しておきたい。良く知られた現象に、他の先進国と比較して日本の女性の学歴はトップグループにあるにもかかわらず就業率は低いと言うものがある。OECD30か国中、29番目だそうだ(男女共同参画白書)。日本と他の先進国の女性の選好が同一であれば、この結果は女性差別を意味するのかも知れない。しかし、日本と他の先進国の女性の選好が同一である事を仮定していい理由は、特に無いように思える。また、制度以外の文化的な差異が原因で選好に影響を与えているとしても、その文化が女性差別と言えるかが分からないからだ。

5. 社会学者がデータを誤診した理由

以上のように、男女の就業率ギャップの差が、男女差別を意味するわけではない。念のために繰り返すが、男女差別の存在を否定するわけでは無く、男女不平等を表す統計データから男女差別の存在を立証できないと言う事だ。本文は女性の選好をコントロールした計量分析で、女性差別の存在を立証する必要性を指摘するものに過ぎない。

計量分析では、同時性バイアスや交絡バイアスと呼ばれ、ありふれた問題で良く議論になる。しかし、社会学者・小宮友根氏は、博士論文も定性的なアプローチをとられていたので、データ分析から因果関係を主張する事の難しさを、良く理解していなかったのであろう。

さて、最後に小宮友根氏と@tikani_nemuru_M氏に感謝を申し上げたい。この問題に関して社会学クラスターで、データ等を用いて反論を行って来た人は他に存在しないからだ。彼らの主張に同意しているわけではないが、彼らの主張の根拠を考察する事ができた。

6 コメント:

地下猫 さんのコメント...

ええと、昨日のツィッターでのやりとりで、
僕「男女の選好が違うとしたらなぜなの?」
君「男女の選好の違いが、何かの従属変数である可能性も否定しませんよ。ただし、生理的な違いから、選好が異なる事は*ありえる*話です。」
僕「生理的に違いに還元できないことは国際比較で日本の賃金格差が著しく大きいことで明らかでしょ?」
君「なるほど国際的に、女性の選好が同一であるべきだと仮定するわけですね。」

という会話をしているよね。
なんで、「日本の男女賃金格差の大きさは、国際比較から考慮して生理的な差に還元できない」という事実判断についての主張から、「女性の選好が同一であるべき」という価値判断を直接に導きだすの?
これ、議論におけるきわめて初歩的な間違いだよ。

先日の記事「ミスコンと女性差別と男女格差と貧困と容姿」もそうだけど、君はすごく基本的なところでまるで論理性がない。

さて、「男女の生理的な違いからもたらされる選好の違い」については、僕は存在していると考える。このあたりについては、頭ごなしに否定する研究者のほうが少ないんじゃなかろうか。
したがって、男女賃金格差の【ある部分まで】は選好で説明することは可能だろう。

君の議論全般にある徹底した非論理性・非科学性というのは、定量的な判断の欠如にある。君は統計を持ってきているのに、女性差別が【あるか・ないか】、女性の選好が【あるか・ないか】の2択でしか発想できていない。これは、ニセ科学に典型的にみられるメンタリティなんだ。かれらは【程度】で判断せず、白か黒かで判断する。
実際に、先日のブログ記事の記述にも、今回の記事の記述にも【どの程度の差別があるか・どの程度は選好が原因か】という記述が見られない。あるというのならあげてみることだ。

そして
「 男女の選好の違いが、何かの従属変数である可能性も否定しませんよ。ただし、生理的な違いから、選好が異なる事は*ありえる*話です。」
男女の選好に違いについてすら「何かの従属変数か生理的な違いか」の2択になっている。問題は、選好の違いがどれくらい生理的なもので、どれくらい「従属的」なものか、なのにね。これでは科学的なものの見方(=定量的判断)がまるでできていないくせに統計的な用語をふりまわす馬鹿、といわれてアタリマエだぜ。

欧米では、統計的・定量的な議論が積み重ねられて、性差別があるとされている。日本では、その欧米よりもさらにひどい賃金格差がある。欧米男性よりも日本人男性はさらに家事をせず、負担は女性にいっている。
定量的に考えることができ、欧米あるいは日本の学者共同体に対するある程度の信頼があるのなら、差別の存在そのものはもう明らかもいいところなんだよ。問題は程度であって、「女性差別の存在を立証する必要性」などとのたまう君のバカ理屈は前世紀の遺物なんだ。

それとね、「失業率」概念も批判されていることは知っているかな?
どうしても思うような就業ができずに「あきらめてしまった」人たちは失業者にカウントされないから、ひどい差別であきらめてしまう人が大量に出たら、それを君のお得意な「選好」で説明することが可能になる、ということだ。この場合、選好の違いそのものが差別の存在を立証する証拠のひとつ、ということだね。
君の議論は最初から最後まで白痴的なタワゴトだね。

uncorrelated さんのコメント...

>>地下猫 さん
コメントありがとうございます。

> 女性差別が【あるか・ないか】、女性の選好が【あるか・ないか】の2択でしか発想できていない。

統計的検定なので、帰無仮説に「女性差別が無い」を置いて、それが棄却されるか否かを分析します。
つまり「女性差別が有る」か「女性差別が有ると言えない」かの二択になっており、「女性差別が無い」は議論していません。

地下猫 さんのコメント...

ぜんぜん駄目だね。
君の言っている内容は

「女性差別で全てが説明できるか、全てが説明できなければ差別があるとは言えない」
というものだよ。
だから、程度問題をガン無視しちゃってるの。
問題設定が違っているのに、
「僕の考えた社会学者のまちがい」をドヤ顔で開陳して馬鹿にされているわけ。

匿名 さんのコメント...

http://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/f/frroots/20111025/20111025220645.jpg
この賃金格差のグラフですが、母集団は何歳から何歳までなんでしょうか?

賃金格差は世代間格差が大きいです。
つまり「男女格差」ではなくて「老人男性」と「それ以外」の構図ですね。

特に高齢女性の収入は非常に低いです。そういう時代もあった訳ですね。

もう最近の30歳以下、未婚者の男女で比較すると、
可処分所得では男女ほぼ同じくらいになってます。
http://ameblo.jp/kamuim3/entry-10764991534.html

賃金格差のグラフを見るとき、母集団の年齢構成、例えば雇用機会均等法の以後なのか以前なのか、によって
この法の効果を見誤ってしまう可能性があると思います。

また昇進に関しては意欲の問題もあるでしょう。
http://www.toyokeizai.net/business/society/detail/AC/2c69b242c748de6526a5105ee3c959f6/
これに関しては、このURLにあるように女性の意欲を高める施策が必要なのかもしれませんが。。。

匿名 さんのコメント...

あと
>良く知られた現象に、他の先進国と比較して日本の女性の学歴はトップグループにあるにもかかわらず就業率は低いと言うものがある。
に関する考察で
http://juliasannokainushi.blog31.fc2.com/?no=55
というのもあります。
私も理系出身なんですが、確かにもっと女性には来てほしかったなー、と思いますw
女性は金にならない学部に行き過ぎる。

まず女性の指向、意欲、みたいなものの変化と向上を促す施策が必要なように思います。
(受験者数が少ないのにアファーマティブアクションしようとしてた大学もありましたが。。。)

uncorrelated さんのコメント...

>>tatara さん
コメントと情報、ありがとうございます。

「男女間賃金格差の推移」は、恐らく全年齢で、おっしゃる通り、世代の影響を受けていると思います。
女性の高学歴化や肉体労働の減少、そして男女雇用機会均等法の影響があるでしょうね。この法律以前に就業したコーホート群は、男女格差が大きいと思います。

若年層の未婚の男女の所得比較は、現在の制度の公平性の重要な指標になると思うので、引用されている数字は参考になりますね。

男女の教育内容の差異は、コントロールすべき要素だと思いますね。別エントリーで引用させて頂きたいと思います。

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