2018年1月26日金曜日

有効率の低いインフルエンザ・ワクチンで集団免疫は獲得できるのか?

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今シーズンのインフルエンザの有効率が、CBS Newsで僅か10%、Quartzで30%と報じられている。このワクチンは当たり年と外れ年がある*1ので、有効率が低いこと自体は妙ではないのだが、低い有効率でも感染が広まらず流行にならない集団免疫を獲得するのに有用と、両方の記事でワクチン接種忌避を戒める内容となっている。ハーバード大学の免疫学の教授にインタビューを取っているので間違ってはいないと思うのだが、何かがおかしい。

1. ワクチン有効率が低ければ、集団免疫の効果も落ちる

今シーズン流行っているH3N2型インフルエンザに対して、オーストラリアでワクチン接種の有効率が10%で、米国での平年のH3N2型への有効率は32%となっており*2、他の株に対してワクチンの有効率が低い。有効率が低いのワクチン接種の費用対効果が低いが、それでも集団免疫を獲得できるので意義はあると言う論調なのだが、論理の飛躍がある。

個人がワクチン接種をする理由として集団免疫を理由にすべきなのかも気になるが、(数字にバイアスが無いと仮定して)10%やそこらの有効率で集団免疫がつくのかが謎である。飛沫感染のインフルエンザは3~4割の個体が免疫を持っていると集団免疫になると言われているのだが、そもそもワクチン接種をする人が3割に届かない。インフルエンザに対して集団免疫を獲得するのは無理では無いであろうか。感染ペースは落ちると思うのだが、有効率が低ければ、その効果も低下するであろう。

何か説明が欠けているのか、平年と比較して効果が低くてもワクチン接種をして欲しいのか。ワクチンには感染や発症を防げなくても重症化を抑制する効果があるので、同じ感染者であっても病状によってウイルスを撒き散らす程度は異なれば、集団免疫につながる可能性があるのかも知れないが、2つの記事では重症化抑制については言及されていなかった。

2. そもそもワクチン有効率を信じて良いのか?

ここで言う有効率はどのような数字であろうか。毎年行なわれているCDCの有効性モニタリング調査*3の場合は、調査対象の病院に通院もしくは入院した患者で、インフルエンザへの感染とワクチン接種の有無を調べた数字から、1-{接種時の感染率}/{非接種時の感染率}で定義された有効率を計算している。ランダム化比較実験(RCT)にはなっていないので、数字に大きなバイアスが入っている可能性があるし、重症化の程度などは評価していない。

インフルエンザにかかっても病院にいかない傾向が非ワクチン接種者にあれば、観測される有効率は低下する。逆に、ワクチン非接種の人の方がタミフルを求めて来院しがちなのであれば、観測される有効率は上昇する。人々の通院傾向はそう急激に変化しないであろうから、高ければ良いのは間違い無いのだが、数字自体は経年変化を追うものであって、水準をそのまま評価しても意味が無いものだ。なお、定義からして誤解は多いらしく「(ワクチン有効率70%について)ほぼ総ての医師が、『100人に接種したら70人が罹らない』と誤解していた」と言う話もある*4

インフルエンザ・ワクチン接種推奨者は、有効性モニタリング調査の結果を信じているのであろうか。毎年公表されている有効率はバイアスが大きいからそんなに信じない方が良いと言うと、有効率が低い年でもワクチン接種をしようと思うのではなく、むしろワクチン不信を招くから、「この数字は信じていません」とは言いづらいので黙っている気がしなくもない*5。感染力が高くても毒性が低いインフルエンザ株もあるので*6、有効率だけではワクチン接種の効果を評価するのに情報が足りていないなんて事も言えないのであろう。

*1関連記事:インフルエンザ・ワクチンが効かない年がある理由

*2記事の見出しからはCDCが今シーズンの有効率を予測しているように読めるのだが、CDCのページでは過去実績を紹介しているだけであった。

*3Seasonal Influenza Vaccine Effectiveness, 2005-2017 | Seasonal Influenza (Flu) | CDC

*4非接種状態のインフルエンザの感染率が10%だとすると、ワクチン有効率70%は「100人に接種したらそのうち93人が罹らない」と言うことになる。

*5インフルエンザ・ワクチンの有効性の評価では、RCTとはいかなくてもコホート分析は加えられているようで、毎年出す有効性モニタリング調査に頼って評価しているわけではないから本当は関係ない。

*6関連記事:弱毒性インフルエンザに踊らされた人々

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