韓国の文在寅大統領が、2015年12月の日韓合意では従軍慰安婦問題を解決できないと宣言*1する一方、日本政府に再交渉を求めない方針を打ち出した*2。日韓合意に基づいて設立した和解・癒やし財団を解体する方針も、模索されている*3。1997年にアジア女性基金の償い金が韓国世論の大きな反発を買い、1998年に当時の金大中大統領が韓国政府が元慰安婦に生活保障を出す代わりに、日本政府に賠償や補償請求を求めないとした事を彷彿とさせるが、今回の方が政治的な混迷は強いものとなっている。
河野談話とアジア女性基金は、日本政府と韓国政府が協議の上、方針を決定した事とは言え、表立った政府間合意は無く、韓国政府にアジア女性基金をサポートする義務を負っていなかった。日韓合意では、韓国政府は財団による補償事業を運営し、さらに「日本政府と共に,この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」と宣言している*4。また、当時は挺対協など元慰安婦支援団体の主張に韓国世論は強く同調しており韓国政府の政治的選択肢は狭まっていたが、最近は韓国世論の慰安婦問題への関心は薄くなっており、日韓合意で朴政権の支持率は微増になるぐらいであった。
元慰安婦の意見を集約しないで結んだ合意だから不当だと言う主張も無理がある。生存している元慰安婦の過半数は、不十分としながらも日韓合意を受け入れている*5し、文政権の聞き取り調査でも、日韓合意の維持を求める意見があったようだ*6。元慰安婦の意見をそのまま反映したものでなくても、合意内容自体の妥当性が全く無いとも言えない。アジア女性基金の償い金の場合は、207名中61名の受け取り実績に留まった。支援団体と元慰安婦の遺族の過半数は強硬に反対しているが、支援団体と遺族の意見を尊重すべきと言う論は出ていない。
文氏の方針は、実質的に日韓合意を破棄する事になる一方、挺対協など元慰安婦支援団体の意向に沿ったものではない。こちらは国家賠償を求めているので、韓国政府が日本政府に追加措置を求めないのは不十分となる。日韓合意が文氏が考える道理にそぐわないという事であれば、日韓合意を破棄してもらって、日韓請求権協定にある仲裁委員会の開催もしくは国際司法裁判所(ICJ)への共同提訴を持ちかけるのが妥当であろう。二国間合意をあっさり破棄してよいのかと言う問題はあるが、防衛や貿易の協定でもないし他国の関心は薄いであろう。そして実質的に破るのだから、日韓関係への影響は同じである。
*2慰安婦合意、日本に再交渉求めず 韓国外相が表明:朝日新聞デジタル
*3日本政府が「和解・癒やし財団」に拠出した10億円のうち約6億3000万円が残っていて、それを基金化して手をつけないとして、日本政府に返金を受け取るようにも求めない事が検討されているそうだ。
*5韓国の元慰安婦は、アジア女性基金の償い金もしくは金大中政権の生活補償金を受け取っており、支援団体から援助を受けているので、金銭的な理由で日韓合意を支持しなければいけない必要性は低い。
*6『(挺対協)などの支援団体に所属していない生存被害者の中には「破棄・再交渉ではなく、不十分ではあるが15年の合意で収めよう」「日本からもっと受け取ろうとすることで両国関係がこじれてしまってはいけない」という人もいた』
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