2010年7月9日金曜日

弱毒性インフルエンザに踊らされた人々

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853億円の政府支出の無駄が発生した。

もう、あまり話題にも上がらなくなったが、新型インフルエンザ(A型H1N1)、通称・豚インフルエンザの流行は、1968年に発生した「香港風邪」以来41年ぶりのパンデミック宣言であった。終わってみたら通常の季節性インフルエンザと比較しても被害の少ない新型インフルエンザで、政府の対応は過剰と言えるものであったが、発生から1年以上経過したので、すでに事の経緯が曖昧だ。事の経緯を整理して、何が問題であったのかを考察してみたい。

1. ウイルスの発生から、無駄の発生まで

振り返ると新型インフルエンザは、初期の頃から弱毒性だと認識されており、ブーム的なワクチン消費があったものの、その必要性が薄い事は最初から分かっていた。しかしながら、何故か全国民が接種可能な量のワクチンを厚生労働省は購入し、最終的には大量の無駄を発生させるに至っている。

2009年3月18日
メキシコで豚インフルエンザの発生が確認される。
2009年4月26日
メキシコで81名の死者が出たと報道される(BBC)。また、カナダや米国でも感染が確認される(厚生労働省)。
2009年4月27日
国内の空港で感染者の入国を食い止める水際作戦が展開される(朝日新聞)。
2009年4月28日
WHOにおいて、継続的に人から人への感染がみられる状態になったとして、インフルエンザのパンデミック警報レベルをフェーズ4に引き上げる宣言がされる。
2009年4月30日
豚インフルエンザ・ウイルスは弱毒性だと、世界保健機関(WHO)緊急委員会委員の田代真人・国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター長の見解が報道される。
2009年5月16日
神戸で新型の豚インフルエンザの国内初感染が確認される。
2009年5月20日
浜崎あゆみ・大塚愛などの人気アーティストの大阪公演が、インフルエンザの流行を理由に中止される(朝日新聞)。以後、新型インフルエンザ対策で、イベントの中止などが相次ぐ(朝日新聞
2009年5月21日
東京と神奈川の海外旅行者に、豚インフルエンザの発症が確認される(朝日新聞)。水際作戦が完全ではない事が明確になる。
2009年5月24日
マスク不足が報道され、また新型インフルエンザ対策として通常のマスクが有効では無い事が報道される。
2009年6月11日
パンデミックが宣言される。WHOが、新型の豚インフルエンザの警戒レベルを現行のフェーズ5から、世界的大流行を意味する最高度のフェーズ6に上げる(朝日新聞)。
2009年8月18日
新型インフルエンザは、「スペイン風邪」ウイルスに類似した部分があるが、毒性が高くなる変異が生じる可能性は非常に低いと考えられると報道される(VOANews)。
2009年8月25日
政府がインフルエンザ・ワクチンの必要量を5300万人分と見積もり、製造が追いつかない約2000万人分を輸入すると報道される。
2009年9月12日
米厚生省が、新型インフルエンザのワクチンは、これまでの臨床試験(治験)の結果、大半の健康な成人には1回接種で十分な免疫が得られていると発表(朝日新聞)。
2009年9月13日
インフルエンザの簡易検査キットの不足が報道される(朝日新聞)。
2009年11月6日
新型インフルエンザ・ワクチンの接種に関して、ワクチン不足や、応募者が殺到、季節性インフルエンザ・ワクチンの不足が報道される(産経ニュース)。
2009年11月18日
厚生労働省が、インフルエンザで休校や学年・学級閉鎖をした保育所や小中高校などが、14日までの1週間に全都道府県で計1万7210施設に上ったと発表。
2010年1月15日
英国のグラクソ・スミスクライン製7400万回分と、スイスのノバルティス製2500万回分のワクチンが特例承認され、全国民分の新型インフルエンザ用のワクチンが確保される。
2010年1月19日
厚生労働相が、新型インフルエンザ用のワクチンが余る公算が高い認識を示す。
2010年4月1日
日本で使われるインフルエンザ・ワクチンは、感染歴がないと効果が低いことが判明(産経ニュース)。
2010年6月4日
WHO事務総長が、新型インフルエンザは最盛期を過ぎたと非公式見解を述べる(毎日jp)。
2010年6月28日
厚生労働省は、輸入ワクチン853億円分が利用されずに廃棄され無駄になると発表(時事ドットコム)。なお、もともとの輸入金額は1126億円で、3割を契約解除した金額が無駄となっている(産経ニュース)。

2. 結局、弱毒性であった

インフルエンザは、日本での死者は多いときで年間1,000人を超える程度になる。今回の死亡者数は10ヶ月間で200人(年間で240人ペース)と決して多いレベルではない(毎日jp)。国の総括会議でも、「毒性などに応じた対策をあらかじめ複数用意すべきだ」としているので、一連の対策としては過剰な反応であったのは共通認識としてはあるのであろう。

3. ワクチン製造は間に合わない

流行から収束までが早く、ワクチン供給のタイミングが全くあっていなかった事も問題である。下は、産経ニュースから転載した図だが、患者の数は11月~12月がピークなのに、ワクチン供給量はその後に増加していることが一目瞭然に分かる。10ヶ月で2億2000万本のワクチンを用意する計画もあるようだが、今回のケースではパンデミック宣言から10ヶ月後は4月であり、既にピークは過ぎていた事は十分に留意する必要がある。また、南半球の国では空気が乾燥しているせいか流行が早く、北半球の日本は流行まで時間がかかったことも注意する必要があるであろう。

4. 政府の対応に問題?

4月末には弱毒性だとは分かっていて、かつ9月にはワクチンが1回接種で十分であると判明しているのに、なぜ大量のワクチンが余ったのであろうか?

有効期限が早く、生産が急にはできないインフルエンザ・ワクチンは、接種する優先順位を決めて、足りない分は諦めるという対応が必要であろう。今回のケースだけで考えれば、集団で感染源になりやすい子供や、被害が大きくなりやすい妊婦などへの重点配分などで限られたワクチンを有効活用するぐらいで、何も国民全員分のワクチンを調達しなくても良かったように感じられる。少なくとも全員分を調達したのなら、全員に接種する仕組みが必要だ。

ここからは憶測ではあるが、秋口にワクチン接種を望む人が多かったため、もし追加調達を決定しないと政治的に問題になるという判断が働いたのではないであろうか。いつワクチンの発注が決まったかは明確ではないが、発表からすると2009年8月だと思われ、少なくとも弱毒性であることが判明した後だ。近年、政府支出の無駄が注目されているが、振り返ってみると今回のワクチン購入費は、典型的な過剰な政府支出のように感じる。厚生労働省の一連の対応が妥当であったかは、疑問の余地が残る。もっとワクチンの発注過程に関して詳細な検証と、国民的な議論が必要なのではないであろうか。

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