2010年7月21日水曜日

児童虐待について知っておくべき10のこと

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成田浩子氏が、「虐待致死傷罪制定及び虐待防止社会に向けての請願」の署名活動を行っている。ネットだけではなく、街頭でも署名活動を行っているので、見かけたことがある人もいるであろう(産経ニュース)。虐待死が傷害致死罪だと量刑が軽いと言うのが主な主張なようだが、量刑を重くしたからといって虐待防止になるのかは不明確だ。児童虐待の要因を除外したり、児童虐待の初期段階で何か対策を取るのであれば、重大な児童虐待を防止する効果はあると思うのだが、罰則の強化で防げる何か根拠があるのだろうか。

この署名活動がかなり唐突な気がするので、まずは「社会福祉行政業務報告」、「児童福祉法28条事件の動向と事件処理の実情」、「児童虐待の実態II」の数字から、児童虐待の現状を10ほど把握した上で、成田氏の署名活動が効果的であるかを考察したい。

1. 児童虐待は年々増加傾向にある。
2000年と2008年で、通報件数(児童虐待相談対応件数)は約2.4倍、保護件数(児童福祉法28条事件)は約1.4倍に増加した。従来よりも社会が家庭の問題に介入する傾向が強くなっているので、一概に児童虐待が増加しているとは言い切れないが、注視すべき状況であるのは変わりない。また、平成11年に児童虐待の定義が変更されたため、これ以前のデータとは厳密にはつながり無くなっている。
なお、検挙件数は2000年に186件であったものが、2007年以降は連続して年間300件を超えている(平成21年版青少年白書
2. 無自覚で虐待になるケースもある。
児童虐待は、身体的虐待、育児放棄、性的虐待、心理的虐待に4分類されている。育児放棄や心理的虐待については、虐待と言う感覚が無いかも知れないが、保護者として子供に対する対応に誤りがあれば、虐待と認定される。ゆえに、子供を車内に放置するなど、無自覚で児童虐待に該当する行為を行う親もいる。
3. 身体的虐待と、育児放棄が多い。
子供を殴ったり子供の世話をしないケースが、平成20年でそれぞれ38%と37%で大多数を占める。全ての虐待件数が増加傾向ではあるが、比率としては10年間で身体的虐待が13%減り、育児放棄が7.7%増加している。
4. 児童の年齢に関係なく発生する。
乳幼児への虐待もあるが、小学生の被害者が多い。児童虐待と言うと、乱暴な親が無抵抗な子供へ暴力をふるうイメージがあるかも知れないが、数字はやや異なるようだ。児童福祉法28条事件の動向と事件処理の実情(2009)にある保護された年齢別児童数は、0~3歳未満が25件、3歳~小学生未満が32件、小学生が68件(この分類だけ6歳~12歳の倍の年齢層を含む)、中学生が37件、高校生が10件となっており、中学生以下では年齢に関係なく児童虐待が発生している。もっとも高校生への虐待は減少するため、親子の腕力が重要な要素であるのは間違いない。なお、小学生ぐらいにならないと周囲と接触が無いため児童虐待が表面化しない可能性はあるため、この数字は注意して見る必要がある。
5. 性差は余り関係ない。
2003年~2009年までに保護された男子は520人、女子は526人となっておりほとんど差が無い(児童福祉法28条事件の件数)。ただし高校生以上になると、男子が10人、女子が52人となり、女子生徒の方がやや虐待を受けやすい傾向がある。
6. 実母が児童虐待を行っている。
2000年~2008年のデータでは、62.4%が実母であり、22.2%が実父である。また、児童虐待の件数の増加に関わらず、この9年間でこの数字はほとんど変化は無かった。小説やドラマのように、養父が児童虐待する比率は実は少なく、実の親、特に母親に虐待されることが多い。
7. 虐待の要因は、ひとり親家庭、経済的困難、孤立だと思われている。
「児童虐待の実態II」では、この3要素が上位3つを占める。似たような要素だと思うかも知れない。もちろん典型例にしか過ぎないが、母子家庭で経済的困難に直面し、周囲のサポートもなく孤立していると児童虐待に走るようだ。
8. 重度虐待には前兆がある。
以下は東京都の数字だが、虐待の期間の最頻値は1~3年であり、虐待の重症度は軽度虐待が多い。分布を元に考えれば、慢性的な軽度な虐待が、より大きな虐待を誘発する可能性が高い。つまり、たいていの重度虐待には何か前兆があると考えられる。
実際、死亡に至った2009年4月の大阪市西淀川区の事件では、それ以前に親類が異常行動を目撃しており(産経ニュース)、同じく死亡に至った2010年6月の福岡県久留米市のケースでも、それ以前から近所の住民から虐待を指摘する通報が市や児童相談所に届いていた(スポニチ)。
9. 虐待が発見された場合、児童福祉法で保護される。
日本でも虐待が発見された場合は、児童福祉法28条もしくは33条の規定により、児童は保護され施設が預かることになる。親権および児童養護施設の費用が問題になるため乱用はできないが、児童虐待に対する究極の保護方法は児童養護施設での保護である。
なお、児童虐待に対応する児童福祉司は、通報件数や業務内容の拡大に対して不足しており、特に都市部で行政で十分な対応が不可能になっている(朝日新聞)。
10. 海外では児童虐待をすると、容赦なく通報され、処罰される。
米国では医療関係者などにも通報義務があり、英国には無いという差があるらしいが、社会的に児童虐待の可能性があれば、通報すべきだと認識されているようだ(外国での児童虐待への取り組み)。

結論

罰則を強化することで犯罪を思いとどまらせることができるケースは、犯罪者が冷静かつ、犯罪が露呈する可能性が高いときだ。児童虐待が発生する典型例は、母子家庭で経済的困難に直面し、周囲のサポートもなく孤立している家庭で、多くのケースでは親の感情的な問題で発生していると考えられる。罰則規定の強化は有効であるかは疑問だ。

むしろ、重度虐待の前兆を掴み、速やかに児童を保護する体制を作る方が効果的だと考えられる。虐待の期間の最頻値は1~3年であり、虐待の重症度は軽度虐待が多いので、多くの場合は医療機関などの社会的な監督体制の強化で対応できる。親権の問題に関しては、なお法改正の余地はあるかも知れないが、これも既に検討されているようだ(法務省:児童虐待防止のための親権制度研究会報告書等の公表について(平成22年1月22日))。行政側の人員不足は、増員と事務手続きの簡素化などのための政治的な決定が必要だが、現状の改善の方向性で問題は無いように思える。

成田浩子氏は正義感から不道徳な保護者を厳しく裁きたいのだろうが、それが虐待防止社会につながるかは疑問だ。子供が死んだり障害を負った後に親を裁いても、実際のところは虐待は発生しているのだ。罰則規定を強化がマイナスに働くわけではないが、真摯に虐待防止に取り組んでいる人たちの活動を無視している点は評価できない。

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