2013年8月13日火曜日

意外に知られていないインフレーションの弊害

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経済学における最適インフレ率の議論を読めば色々と書いてあるのだが、世間ではインフレーションの弊害が必ずしも理解されてはいないようだ。学術的に望ましいインフレ率が確定したわけでも無いので、やむを得ないところもある。しかし、素朴に物価が上がったら困ると言う以上の問題が、潜在的にはある。これに関して立派な展望論文*1もあるのだが、大雑把に問題点を整理してみたい。

1. 貨幣保有コストの上昇が、取引費用を増やす

インフレには、貨幣保有コストを増加させて、取引費用を増やす傾向がある。貨幣の保有が損になるから、貨幣やそれに近い資産を持ちたがらなくなる。低利の預金を高利の投資に変える、インフレ連動の債務契約を結ぶ、インフレで実質価値が落ちない不動産や株式などの資産を保有する、外国通貨建ての資産保有を増やすことが起きる。手間隙がかかるだけではなく、融資や投資の阻害になる時もあり、そうなると資本蓄積にも支障が出る。

2. 逆進的な再配分機能が、貧乏人を苦しめる

インフレには、逆進的な再配分機能もある。インフレに負けないリスク資産は資産家が多く持ち、インフレに負ける安全資産は労働者が多く持つ傾向がある。賃金上昇もインフレに先行しない事が多いであろう。インフレーションは形を変えた税金でもあるのだが、資産家よりも労働者の方に多くの負担がかかる逆進的課税である可能性が高い。

3. タイミングによっては世代間格差も問題になる

タイミングも問題になる。老人と中年が、それぞれ貯金を持っているとしよう。老人が貯金を使い切って死んだ後に、それが契機でインフレになり、中年の貯金の価値が下落したら、それは公平と言えるのであろうか。引退世代の消費行動からすると貯金を使い切る人は少ない気もする*2のだが、インフレが起きるタイミングによっては世代間格差も問題になりうる。

4. インフレは原理的に加速する

これらの弊害も数%の間であれば、気にならないかも知れない。しかしインフレは、加速度的な効果を持ちうる*3。インフレは貨幣需要の減少によっても発生するが、インフレ率の上昇が貨幣保有コストを引き上げ、貨幣需要を減らすため、インフレがインフレを加速する効果が少なからずある(インフレ率↑ → 貨幣保有コスト↑ → 貨幣需要↓ → インフレ率↑)。だんだんと外貨や貴金属による預金や決算が当然になり、最悪、通貨が放棄されることもある。

5. インフレーションの利益は加速しない

インフレにも利点はある。シニョリッジが得られ、事実上の税収になる。賃金の下方硬直性があり、それで失業率が高いのであれば、緩やかなインフレーションは失業問題の改善につながる可能性がある。また、クルッグマンが言うようにゼロ金利制約で実質金利が高止まりしているのであれば、緩やかなインフレは投資水準を引きあげる事が可能かも知れない。

しかし、これらの利点はインフレ率とともに上昇するわけではない。インフレで通貨価値が減少すると、シニョリッジも減少していってしまう。失業率の低下には限度がある。ゼロ金利制約も解消されれば、それ以上の利益はない。

*1Schmitt-Grohé and Uribe(2010)

*2高齢者は遺産を残して死ぬので、貯金が減るとは限らない。相続財産は毎年50兆円を超えていると思われ(宮本(2010)の図表1「相続市場の推移」を参照)、平成22年度年次経済財政報告の記述では「70歳以上では・・・消費性向は100%前後であり、貯蓄は取り崩していない」とある。

*3ハイパーインフレーションの理論」を参照。

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