韓国を専門とする国際政治学者の浅羽祐樹氏が、韓国司法を分析している(SYNODOS)。韓国に留学していたので韓国好きだと思うのだが、説得力があるように感じない。
まず、浅羽氏は日韓併合が合法か違法かで見解が異なる事を紹介しているが、条約の解釈にどう影響するのかを示していない。また、韓国司法が「日韓請求権並びに経済協力協定」を一部否定していることを無視している。さらに、浅羽氏の分析と政策提言は論理が乖離しているように思える。
1. 韓国併合が違法だとして、なぜ条約の解釈が変わるのか?
韓国の政治的状況を理解するのに、日本統治への見解を理解すべきと言うのは分かる。しかし、韓国併合が違法だとして、なぜ条約の解釈が変わるのか?*1
例えば「日韓請求権並びに経済協力協定」の条文を見る限り、韓国併合の合法性で解釈が変わるわけではない。
第二条 1. 両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。
韓国司法は個人/法人間の賠償請求が含まれ無いと解釈したわけだが、浅羽氏の説明からはその法理は読み取れないわけだ。また、浅羽氏はサンフランシスコ講和条約による特別取極だと説明しているが、条文を読む限りは「含めて」とあり、講和条約で言及された請求権だけに制約されているわけではない。
他にも日韓犯罪人引渡条約、文化財の不正輸出入禁止に関するユネスコ条約についても同様で、これらの条約が1911年の韓国併合を理由に無効だと言う法理は理解しづらい。しかし、浅羽氏は韓国が韓国併合が違法だと主張している事は紹介しているが、それが各種の司法判断に結びつく理由を一切説明していない。
2. 韓国司法は「日韓請求権並びに経済協力協定」を一部否定
韓国司法(大法院)は「日韓請求権並びに経済協力協定」の解釈を試みたのみならず、その条文を一部否定している(菊池(2012))。
条約の締結により、国家が外交的保護権の放棄にとどまらず、国民個人の同意なくその請求権を消滅させることができると見るのは、近代法の原理に反すると指摘し、原告の未払賃金等の債権債務関係についても、外交的保護権が放棄されただけであり、個人請求権は請求権協定により消滅していないと判示した(なお、原審は、請求権が消滅したか否かについては判断を下していない)。
個人請求権に関して韓国政府と日本政府の間のいかなる合意も無効だと、韓国司法は主張しているので、もはや外交交渉も意味がなくなっている。
3. 浅羽氏の分析と政策提言は乖離している
浅羽氏は『反日」は韓国の憲法そのものにビルトインされているため、それに基づく司法が「反日」化するのは、遅かれ早かれ、ある意味、論理的帰結にすぎない』と指摘する。一方で、「対外的に韓国を代表する朴槿恵大統領の言葉と論理でそのまま韓国政府を追及」すべきだと主張する。仲裁委員会よりも、WTO政府調達協定や日韓投資協定を利用しろと言う(どうやって?)。
問題と解決策がかみ合っていない。韓国の行政府が憲法や司法を上回る存在でない以上、行政府に幾ら圧力をかけても無駄で、浅羽氏の提言は意味をなさない。むしろ、浅羽氏が並べる情報をつなぎあわせると、日韓による外交的解決は不可能であるように思える。それとも朴政権が、日韓関係の改善のために憲法改正などを行えると言う話なのであろうか?
*1韓国併合が違法と言う主張には、日本が朝鮮半島で虐殺や収奪を行ったと言うかのような歴史認識が元になっているようだ。民族虐殺などの人道に対する不文律の罪はjus cogens(強行規範)として条約やその他の法規に勝るとされる。内地でも行っていた工員や従軍慰安婦の募集や徴用が民族に対する罪になるのか疑問が多いが、「日本の国家権力が関与した反人道的不法行為」と考えられている。
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