2013年8月14日水曜日

税収弾性値3~4に飛びつく前に知るべきこと

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正しい推測では消費増税はいらない?」で、政府が1.1程度と見ている税収弾性値の2001~2009年度の推定値が、実は3.1が正しいと主張している。

経済成長と財政健全化に関する研究報告書」がソースなのだが、その推定値は載っているが「正しい」とは書いていない。どちらかと言うと、その推定に欠如している要因を延々と説明している。

1. 二種類の税収弾性値

この報告書では議論のために、幾つもの税収弾性値の推定値を示しており、大別すると二種類ある。一つは主に議論している「税収の伸び率÷名目GDPの伸び率」で、この推定では4.04だそうだ(実績値)。一つは脚注にある「税収伸び率と名目成長率の対数階差を用いて推計」したもので、税制変化の影響をコントロールしようとしたものだ(改正なし)が、こちらだと3.1になるそうだ。後述するが、どちらも間違っている。

2. 税制変化と定額貯金によるバイアス

税制の変化などの特殊要因で、この税収弾性値はかなり変わる。報告書では以下の二つの要因が言及されている。

  1. 2006年度税制改正で3兆円の減収になり、2006、2007年度に定率減税が廃止(=増税)され1.3兆円、1.2兆円の増収となった。合算すると、2006年度に1.7兆円の減収、2007年度に1.2兆円の増収が発生している。
  2. 2000~2001年度に郵便局の定額貯金が大量に満期を迎えていたので、2002年度に8.6%減と大幅減収となった。

改正なし3.1の方は税制改革が無い場合の想定税収を計算して、それから税収弾性値を計算しているので(1)の補正は入っているのだが、本文を読む限り(2)の補正が入れられていない。

3. 推定値自体の信頼性が無い

統計的にも二種類の税収弾性値のどちらも信頼性が無い。

推定が正しければ、だんだんと実績値の税収弾性値は下がる事になる。景気に左右されない消費税を導入したのが1989年で、その税率を上げたのは1997年だ。また、所得税と法人税の税率は80年代の方が高い。しかし、1981~1990年、1991~2000年、2001~2009年の三区間に区切って推定しているのだが、1.43、1.91、4.04となっている。標準偏差も0.51、4.13、3.91と大きい。

推定が正しければ、改正なしの税収弾性値は、名目GDPが上下のトレンドが無ければ一定になる。1991~2000年と2001~2009年の改正なしの税収弾性値は同じような値になるであろう。しかし、0.38、3.13と推定されていて変動が大きすぎる。税収に入る様々な特殊要因をコントロールし切れていないわけだ。なお、標準偏差は示されていない。

4.「1991年度と2009年度の比較」が興味深い

この報告書の税収弾性値は、そう信頼が置けるものではない。むしろP.17の「1991年度と2009年度の比較」の方が興味深かった。名目GDPは473.6兆円と474.0兆円でほとんど差が無いのに、国と地方をあわせた一般政府税収は101.0兆円と76.6兆円で大きな差がついている。所得税・法人税で25.4兆円、相続税・贈与税で1.3兆円の差がある。

所得税は、課税ベースが大幅に減少している。色々な所得控除が影響しているのであろうか。

減税無しで同じ名目GDPになったのかなど論点は色々あると思うが、90年代に起きたのは増税では無く減税である事は確認できると思う。

5. 失敗した推定は、失敗していると書くべき

問題のブログ主に「このドシロウトが!」と言おうと思って報告書を確認したのだが、推定に失敗している値を堂々と載せているので財務省に「このドシロウト以下が!!」という事にしたいと思う。税収弾性値を無視できなかったのは理解できるが、失敗した推定は失敗していると書かないと、素人さんが飛びついて踊りだすから危険だ。そして何が起きているのか説明しづらいので、せめて推定結果の表を付けて欲しい。

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