2013年8月11日日曜日

無税国家が実現可能と言うかのようなお話について

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国の債務は返済の必要がないという本質」と言うブログのエントリーが注目されていて、税金は不要なわけがない、ギリシャ、ジンバブエ、アルゼンチンをどう考えるのか*1、信用貨幣をどうするかなどなど批判的なコメントが大量についていた。

大雑把には妥当な批判だと思うのだが、もう少し問題のエントリーを厳密に見てみよう。

1. 過剰なインフレーションのリスクがある事を忘れている

まず、タイトルだが、政府債務は償還期限があるので返済の必要が無いと言うのは、目を引くためのものかも知れないが、読者を困惑させるものになっている。ブログ主が言いたいのは、政府債務の名目水準を減らす必要が無いと言う事のようだから、そう書くべきであろう。償還期限があると借り換えが出来ることが重要になるので、問題の質が大きく変わってくるからだ。

政府債務の借り換えに失敗すると、中央銀行が引き受ける事になるので、マネタリーベースが飛躍的に増大する可能性が出てくる。つまり、招かざるインフレーションが問題になる*2。ブログ主はマネタリーベースが減るから問題だと言っているわけだが、増えすぎても問題を抱え込む事を無視している*3

2. 中央銀行のバランスシートを理解できていない

次に、通貨についての理解がおかしいように思える。

現代の金融システムでは、あなたや私が持っている全てのマネーの背景として、必ず同額の債務が存在し、また債務があるからマネーが存在するといった関係があるわけです。 ここさえ押さえれば現代金融システムの根本は分かったことになります。

それにも関わらず、政府がその債務を故意に縮小する、ということは取りも直さず民間に出回るマネーの規模を故意に縮小させることでもあります。その結果はマネーがもとの「無」に戻るだけです。

議論が大雑把過ぎて、論理的におかしくなっている。実物貨幣と信用貨幣の識別がついていない。実物貨幣の量は、与信量で決まるわけではない。

実物貨幣は日銀券の事だが、日銀のバランス・シートを見ると資産の部に国債や銀行への融資などの債権が、負債の部に日銀券が計上されている。日銀保有の政府債務(大半は国債)の量が多いほど、日銀券が増える。政府がその債務を縮小した場合に、日銀保有の政府債務が減るかと言うと、民間保有の政府債務もあるので、日銀券、つまりマネタリー・ベースは減るとは限らない。1兆円の増税で、1兆円の国債を償還したら、民間に残る現金は±0となる。ブログの著者は実物貨幣の供給メカニズムを理解していないので、論理的に間違った結論を導き出している。なお、信用貨幣の量は与信量で決まり、マネタリー・ベースが一定ならば、金融市場からの影響は受け無いであろう。

細かい部分だが「全てのマネーの背景として、必ず同額の債務が存在」は厳密には間違いで、中央銀行が実物資産や株式、不動産投信などを購入した場合は例外になる。素人は「全て」や「必ず」を気軽に使うから困ると言いたくなる。また、問題設定が政府の内国債の返済の必要性なのに、“マネー”(=貨幣)の増減を議論しており議論につながりがない。貨幣量が減ったらデフレになると言いたいのであろうが、言及は必要であろう。素人は論が飛躍しやすいと言いたくなる。南倍南先生、お出番です。

3. 都合の悪い事が言及されていない

最後に、基本的な事実関係を無視するか、認識できていない。

実際、1997年の橋本増税も財政再建を目指したものでしたが、現実にはデフレ経済を強化し、政府債務の増加を加速したに過ぎませんでした。

逆に、景気が良かった2006、7年頃は自然増収と名目GDPの伸びにより政府債務対名目GDP比は下がっています。

1997年の消費税率引き上げは、なぜかずっと誤解し続けている人がいるのだが、前後の所得税、法人税、相続税の減税がある*3ので、租税負担率で見た場合は増税になっていない*4。2007年度は全上場企業の純利益が過去最高の25兆6156億円になった年で、国際的にもリーマン・ショック前のバブル的な状況であった。それと同様の経済成長を続けることができると言う見通しは甘いように感じられる。

*1デフォルトした国々は外国債の比率が大きく、日本は内国債の比率が大きいため、比較は妥当ではないかもしれない。

*2現在はデフレだから多少のインフレは問題にならないと思うかも知れないが、政府が債務量をコントロールする気が全く無ければ、ハイパーインフレーションになってしまう。

*3クルッグマンの議論では、ゼロ金利下であればマネタリーベースの拡大は経済に影響を与えない(関連記事:クルッグマン論文を使って、池田信夫を応援する)。ゆえに政府債務の量は、ゼロ金利を脱出したときに問題になると考えられる。

*4第3-2-10表 過去の主要な減税政策(国税、個人所得税・法人税) - 内閣府」を参照。

*5国民負担率(対国民所得比)の推移」を参照。

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