2012年4月14日土曜日

インタゲとリフレと経済評論家

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経済評論家の池田信夫氏が高橋洋一氏を、日本銀行の目標は日銀法に信用秩序の維持と物価の安定と定められており、日銀に目標の独立性があると言うのは誤りだと批判している(BLOGOS)。

この批判は正しいが、そこから先が分からない。インフレターゲティングは中央銀行のガバナンス方法では無いし、緩やかなインフレ率を批判する理由も無いからだ。池田氏は国債残高からハイパーインフレーションを危惧しているようだが、緩やかなインフレがそれを引き起こす根拠は無い。

1. インタゲは中央銀行のガバナンス方法ではない

インフレターゲティングは中央銀行のガバナンス方法では無く、中央銀行のアナウンスメント効果を通じた期待インフレ率の操作方法だ。期待インフレ率を通じて生産活動の程度が決まるため、これは実際のインフレ率に大きな影響を及ぼす。

著名なマクロ経済学者の伊藤隆敏氏は「市場にきちっとした物価目標を提示することで、インフレ期待の安定と、金融市場の安定性を確保する」と、インフレターゲティングを説明している。高橋洋一氏の言うような、日銀に責任を取らせる仕組みとは言えない(関連ページ: 高橋洋一のインタゲはちょっと違う?)。

2. 緩やかなインフレは経済にプラス

教科書的なマクロ経済学では、自然利子率と実質金利が一致している点が望ましいとされる。高齢化で生産年齢人口が減少している経済では、資本の限界生産性が低下し、自然利子率も低下する。現在の日本だとゼロかマイナスである可能性もある。しかし、(実質金利 = 名目金利 - インフレ率)と言う関係があり、名目金利は0%以下にならないため、デフレ下では実質金利はゼロより高くなってしまう。ゆえに、緩やかなインフレは自然利子率と実質金利を一致させられると言う意味でプラスだ。

デフレは信用秩序の維持と物価の安定に寄与しない。名目金利が事実上の下限である1%で、インフレ率-1%であれば、実質金利は2%になる。自然利子率が0%だとデフレ・ギャップが生じる。インフレ率を+1%にできれば、名目金利が1%、実質金利が0%になるので、デフレ・ギャップを解消できる。

3. 緩やかなインフレは財政状態を改善する

フィッシャー方程式からインフレ率の上昇が国債金利の上昇をもたらすと言う考えがある。ごく常識的な考えだが否定したい。インフレ率が2%、国債金利が1%のとき、金利0%の現金と国債のどちらを保有するか選択して欲しい。不満があっても国債の方がマシなので、国債の買い手がいなくなるわけではない。金融機関から見ると国債はリスク無し資産になるため、自己資本比率規制の面から見ても有利だ。

景気が良くなるまでは、緩やかなインフレは金利の上昇をもたらさない。実際にインフレ率が高い方が、長期金利と名目GDP成長率のギャップは縮まり逆転する傾向がある。

政府収入は名目成長率と連動するだけではなく、所得税の効果によりGDP比の税収が増す傾向がある。税収係数は1.1ぐらいだそうだ。ゆえに緩やかなインフレで金利が上昇し、財政破綻が起きると言うのは、無理がある主張に感じる。

4. ターゲットレートが過激な水準に定められることは無い

緩やかなインフレは望ましく、インフレターゲティングがそれを実現する手助けになる。どの程度のターゲットレートが望ましいと言えるであろうか?

ターゲットレートに関しては、バーナンキFRB議長は何かのショックでデフレにならない程度のインフレ率(2%)が必要だと主張しており、ノーベル賞経済学者のクルッグマンはNAIRU以下の失業率を達成するインフレ率(日本だと3.5%)である必要があると主張している。

ターゲットレートに関しては、現状では1%~3.5%ぐらいが相場になるであろうから、高インフレに偏重する事はないし、むしろ高インフレ時に中央銀行が金融引き締めを実行しやすい環境になる。

5. リフレーション政策にあるリスク

インフレターゲティングは宣言なので、ハイパー・インフレーションを引き起こす可能性は無い。ただしアナウンスメント効果の裏づけとして量的緩和を行ったときには、ある種のリスクを抱え込むことになる。

中央銀行の資産内容によっては、予期せぬインフレが発生すると、インフレが加速する可能性がある。貨幣乗数が増加しているであろうから、予期せぬインフレを鎮めるにはハイパワードマネーである日銀券を回収する必要がある。しかし、インフレは日銀の保有する債券価値を下落させるため、十分に日銀券を回収できないかも知れない(関連記事:日銀がリフレーション政策を嫌がる理由)。

高橋洋一氏がインフレ・ターゲティングを日銀にリフレーション政策を実行させるためのガバナンス機構のように吹聴しているために誤解があるのだと思うが、インフレ・ターゲティング自体には特に大きなリスクは無く、危険があるのはリフレーション政策という事になる。

6. 単純明快なリフレ政策と、掴みどころの無いインタゲ

量的緩和を行えば、インフレ率が上昇し、円安になると言うリフレーション政策には、新興宗教的な単純明快さがある。しかし、量的緩和期にインフレがもたらされたわけでもなく(当時のインフレ率は-0.4%~0.3%)、為替レートは名目金利で説明する方が説得力がある。単純回帰で比較しても、VAR/VECM等で効果を見ても量的緩和が為替に影響を与えた根拠は見出せていない(関連記事:何だか怪しい量的緩和の計量分析とある為替レート決定理論の計量分析に関して)。理由はマネタリーバランスとマネーストックの乖離があって、日本の名目金利がほぼゼロだからだ。

要するに量的緩和を行っても、日銀当座預金が増加するだけで、市中に資金が供給されることがなかった。人々のインフレ期待が低い為に、積極的に投資が行われなかったためだと考えられる。つまり、機械的な金融政策は有効とは言えず、中央銀行は人々の情緒に訴えかける演技者としての能力が求められているわけだ。これは、とても掴みどころが無い。

7. 経済評論家の単純化しすぎた議論

池田信夫氏と高橋洋一氏の論争を見ていると、池田氏は緩やかなインフレのもたらす効果を完全に無視し、高橋洋一氏はとにかく量的緩和を行えばインフレになると強調する。単純化に失敗した議論は、期待インフレ率とインフレターゲティングと言う本題から外れて、単にリフレーション政策を行うか否かに集約されているようだ。

この二人の論争を眺めることは愉しいが、実際には信じるに足る部分はほとんど無い。以前、池田信夫氏が民主主義の限界を主張していたが、それにも奇妙な点が多かった(関連記事:アローの不可能性定理と民主主義の限界)。専門性が高い問題で安易な解にすがる自称専門家の出現の方が、情報にノイズをもたらすと言う意味で民主主義を阻害しているように思える。

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