経済学者の野口悠紀雄氏の「工業製品の価格は40%下落し、サービス価格は20%上昇した」と指摘している。サービス価格は上がっているので、価格の調整機能が失われていないと言う主張であろう。
しかし、サービス価格と言われても、漠然としていてイメージが良くつかめない。相対物価の値上がり品目と、値下がり品目を確認してみよう。
1. 分析方法と結果
1998年を基準年とした品目CPIと総合CPIの乖離を相対物価変化指数として定義する。品目を添字i、年を添字tで表した、実際の計算式は以下のようになる。
相対物価変化指数は、相対的に物価が上昇すれば1より大きい、下降すれば1未満の値になる。支出比率が一定以上で、相対物価変化指数が0.97以下もしくは1.03以上のを品目を見てみよう。
品目 | 相対物価変化指数 |
---|---|
値下がり品目 | |
教養娯楽用耐久財(テレビ等) | 0.104 |
家庭用耐久財(エアコン等) | 0.413 |
家具・家事用品 | 0.718 |
通信 | 0.794 |
教養娯楽 | 0.831 |
教養娯楽関係費(レジャー関係) | 0.854 |
飲料 | 0.872 |
教養娯楽用品 | 0.889 |
理美容用品 | 0.921 |
医薬品・健康保持用摂取品 | 0.932 |
生鮮野菜 | 0.947 |
油脂・調味料 | 0.955 |
生鮮魚介 | 0.958 |
被服及び履物 | 0.964 |
酒類 | 0.964 |
値上がり品目 | |
家賃 | 1.036 |
理美容サービス | 1.046 |
交通 | 1.049 |
調理食品 | 1.057 |
乳卵類 | 1.069 |
書籍・他の印刷物 | 1.079 |
外食 | 1.079 |
菓子類 | 1.099 |
肉類 | 1.117 |
自動車等関係費 | 1.119 |
光熱・水道 | 1.136 |
諸雑費 | 1.139 |
保健医療サービス | 1.175 |
野口氏は90年代初頭からの相対物価で議論しているので、一応、1993年基準でも計算してみたが、リストした品目で自動車等関係費以外で傾向が変わるものは無かった。自動車等関係費は、 1993年基準で見ると、ほぼ全体CPIと同じ動きで相対物価に変化はない。
2. 医療・電気・ガス・水道のサービス価格は上昇中
相対的に値上がりしている品目を見ると、確かに外食、理美容サービス、保険医療サービス、家賃があるので、サービス価格の上昇は確かなようだ。光熱・水道なども相対的に値上がりしているが、これはエネルギー価格の高騰があるので、サービス価格の上昇と見なして良いかは分からない。また、レジャー関係も相対的に価格が低下している。
3. 家賃は相対的に値上がり傾向
本題と外れるが、意外であったのは、家賃。地価は下がっている印象があり、例えば東京都全域の地価公示価格指数は1998年が147.8、2009年が135.7となっている。区部が143.5から149.0と値上がりしているので、これを受けたものであろう。都心回帰の結果により家賃は結局、下がっていないと言う事のようだ。
4. デフレでは賃金や金利の変化が起きづらいのが問題
変化の激しい外食や美容院の価格が上昇しているので、価格調整機能が損なわれていないと言うのはある程度の説得力はある。しかし、デフレで問題になる価格の下方硬直性では、賃金水準の変化が最も大きな問題になる。
従業員が賃下げに応じないので、会社を整理してしまった介護サービス会社が報道されていたが、インフレだったら賃上げに応じないだけで実質賃金を下げられたはずで、こういう乱暴な事象はおきなかったはずだ。物価では無く賃金の方が問題になるように思われる。さらにデフレで自然利子率がゼロであれば、名目金利の非負制約により実質金利が高止まりしてしまい、投資量が少なくなる。
デフレは賃金や金利を通じて問題を引き起こすわけで、消費財の相対価格の変化が行われていても、全般としてインフレなのかデフレなのかはやはり問題になる。また、デフレが貨幣的現象なのか、コスト削減効果の結果なのかは問題では無い。デフレが貨幣的現象でなければ、金融政策で安易にインフレを起こす事はできないが、野口氏の主張は少しポイントがずれているように感じる。
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