2011年7月14日木曜日

天然ガス回収可能資源量が250年の意味

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IEAのWORLD ENERGY OUTLOOK 2011に「シェールガスも含めた天然ガスの埋蔵量は250年以上ある」と書いてあると主張している人がいるので、その250年の意味を注釈しておきたい。埋蔵量の仮定が甘いこと、需要量の一定が仮定されていることが忘却されているようだ。以前に同じ内容のエントリーを書いたが、再確認でまとめてみる。

1. 掘れないガス田、未確認ガス田の埋蔵量も加算されている

"250 years"の前後の説明を良く読めば分かるのだが、250年は最大限に見積もった天然ガス埋蔵量を、現在の年間天然ガス消費量で割った値だ。最大限と言うのは、未発見のガス田や、地勢的に採掘不可能なガス田、現在技術では経済的に採掘不可能なガス田を含む。つまり都市の地下にある南関東ガス田や、日本近海の海底にあるメタンハイドレートなども含む数字となっている。

2. 需要量の増加は全く考慮されていない

需要量も近年の値を用いているに過ぎない。中国やインド等の新興国のエネルギー需要の増加にあわせて天然ガス需要は25年で2.83倍のペースで伸びている。現在の主なガス田地域の回収可能資源量は75年分だそうだが、25年で2.83倍のペースで消費量が伸びれば2045年には天然ガスが尽きる。回収可能資源量250年と仮定しても、2069年には天然ガスが尽きる事になる。

これらの単純計算では天然ガス需要が最終的に現在の10倍になることになる事に気付いた人もいるかも知れない。現在の10倍の需要は現実的に思えないかも知れないが、天然ガスはクリーンなエネルギーとして石油や石炭の代替になることから化石燃料の中で最も利用が進むと見込まれており、また新興国のエネルギー需要は飛躍的に増加している。

仮に現在の世界中の石炭消費を天然ガスで置き換えるとすると、天然ガス消費は2倍以上になる。さらに原油も天然ガスで置き換えるとすると、3.6倍の消費量になる(エネルギー白書グラフ【第221-1-2】のデータから計算)。代替効果で何倍もの天然ガス需要が発生しうる。

アジアや南米のエネルギー需要の増加は旺盛だ。中国が米国並の経済になれば13億人が現在の5倍のエネルギー消費を、インドが米国並みの経済になれば12億人が現在の10倍のエネルギー消費を行う事になる事を考慮すると、大きく見積もった数字ではあるが5倍や10倍の天然ガスの消費量増加はありえないとは言い切れない。

実際に尽きる事が無いとは思うが、そのときは天然ガス価格は急騰するであろう。先物取引が多く安定的と言われる天然ガス価格だが、実際は大きく変動している。2011年上期の天然ガス価格は2001年の2倍以上に上昇している。2008年のリーマンショック後に急落したが、その後は順調に価格は戻しつつある(天然ガス価格の推移)。IEAの予測でも価格上昇傾向は続くことになっている。脱原発によるLNG火力の建設はその予測には含まれていないため、天然ガス需要が予測よりも増える可能性は大いにある。

3. 二酸化炭素排出削減問題は考慮されていない

新興国がそこまで経済成長しないと考える人もいるであろう。せいぜい、今の数倍の消費にしかならないと考えるかも知れない。その場合は可採可能年数には余裕が出る。しかし、天然ガスが大量にあっても、温暖化ガス排出問題で採掘できない可能性もある。

石炭火力をLNG火力へ置換してもCO2は40%しか削減できない。技術的限界とされる1700℃級ガスタービンが開発されれば45%程度の削減になるのかも知れないが、エネルギー需要の増加からするとCO2排出量は増加してしまう。つまり、存在しても仕えない事態もありえるわけだ。

4. 原子力や再生可能エネルギーに頼る必要性がある

電力自由化を行った米国や英国が原子力開発に傾斜しつつあるのには、世界中で高コストで利用率の低い再生可能エネルギーの研究開発が促進されているのには、日本が2030年までに原発と再生可能エネルギーのシェアを大幅に伸ばすエネルギー戦略を立てていたのには、結局それなりの理由がある(関連記事:選択肢の残されていないエネルギー戦略)。天然ガスが現実的な一次エネルギーなのは間違いないが、それに依存できない理由があるからこそ従来のエネルギー戦略が立てられていた。それを忘却するのは軽率だと言わざるを得ない。

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