人気ブロガーの藤沢数希氏が「原発ゼロにすると大気汚染の増加で何人ぐらい死ぬのか?」というエントリーを書いている。以前の同じ内容のエントリーと比較して、国ごとの火力発電所の汚染物質排出量を考慮しているので精緻化されつつあるが、まだ過剰に死亡者を見積もっている。
1.「脱原発」の死亡者数?「再稼動先送り」の死亡者数?
将来的な「脱原発」と、現在進行中の「再稼動先送り」の死亡者数は別の話だ。現在は既存施設を稼動するしかないが、将来は低汚染のLNG火力発電所(1700℃級ガスタービンかも知れない)の割合が増加する事は容易に予想できる。「原発ゼロ」としか書いてないので、どちらを想定しているのかが良く分からない。
「再稼動先送り」であれば石炭・石油火力発電所からの大気汚染が多くなるが、「脱原発」であれば大気汚染の増加は限定的になる。燃料代が安く済み、大気汚染がほとんど無いLNG火力が新設の中心になるのは明らかだ(関連記事:脱原発によって増える年間死亡者数は2.5人)。
2. 火力発電所からの汚染物質は住宅密集地に飛んでこない
煙突が高いのは登るためではない。上空高くに汚染物質を排出し、なるべく拡散させるためだ。窒素酸化物のケースだと、煙突出口で5ppm、着地濃度で0.00061ppmとなっている(四国電力)。火力発電所から出た多くの汚染物質の大半は、人家の無い所に拡散している。火力発電所の煙突が高いのには理由がある。
全国の石炭火力発電所の位置を確認してみよう。東京電力管内では、福島県双葉郡広野町、茨城県那珂郡東海村、福島県相馬郡新地町、福島県いわき市となっている。大気汚染の程度が大きい石炭火力発電所は、人口密集地域には設置されていない。
逆に自動車の廃ガスは街中で、低い高度で排出される。このため、現在の市街地の汚染源の原因は大半はガソリン/ディーゼル・エンジンとなっている。実際に交通量と汚染量は密接な関係がある事が分かっている(早川・唐・鳥羽・亀田(2008))。
3. 過剰評価だが参考値としては悪くない死亡者数
以上の理由で藤沢数希氏の最新エントリーでの推定値、原発ゼロで年間1200人の死亡者数増も過剰推定である可能性が高い。万単位の見積りよりはずっと現実的だが、まだ精緻化する余地がある。
さて問題点を指摘してみたものの藤沢数希氏の推定は、ブロガーとしてはそう悪くは無いと思う。汚染物質の拡散観測や、実際の市街地データの観測は大気汚染の専門家でないと手出しが難しい。米国の石炭火力による死亡者数データも、実際の都市の大気汚染源を確認した上でのデータかは良く分からない。綿密に計算してきて、唐突に「ざっくりといって、1200人から数千人ぐらいの死者が毎年出る程度ですね。」と根拠不明な数字を言い出したのには驚いたが、学術分野の人ではないからやむを得ないのであろう。
8 コメント:
アメリカのEPIの報告書
http://www.earth-policy.org/plan_b_updates/2008/update70
では、石炭火力発電所からの大気汚染物質の影響で、毎年2万人程度が犠牲になっていると推計しているようですが、これは石炭火力発電所の煙突を低くしたと仮定して計算したのでしょうか?
なぜ煙突を低くした場合を考えて、それより高いから安全だというのか、その主張の意図がよくわかりません。
煙突の低い火力発電所がどこかにあるのですか?
>>gdgdさん
汚染物質を林野や海に拡散させれば、それを吸い込む人は少なくなりますね。
米国の方は総排出量に占める石炭火力発電所の汚染物質から、機械的に呼吸器不全などの被害者数を出したのだと思います。
実際に都市部で石炭火力発電所からの汚染物質が観測されているのかは、確認していません。
>米国の方は総排出量に占める石炭火力発電所の汚染物質から、機械的に呼吸器不全などの被害者数を出したのだと思います。
↑
ようするに、それはあなたの想像で根拠があるわけではないということですね。煙突の高さは適当に決められているものではないですよ。どれぐらい拡散して地表に降りてくるかが計算された結果、高さが決められています。
http://www.maizuru-ct.ac.jp/civil/shikura/kankyo/Chap5up.pdf
なぜ、そういった根拠のないことを書くのかわかりません。書くのであれば煙突が低ければもっと被害が拡大していたという話でしょう。
>>gdgd さん
> 煙突の高さは適当に決められているものではないですよ。どれぐらい拡散して地表に降りてくるかが計算された結果、高さが決められています
そうですよ。ですから、煙突が高いのには汚染物質を拡散させる意味があると言うことです。
>>gdgd さん
付け加えておくと、あなたが参照している資料は、煙突が汚染物質を拡散する事を示していますが、現実の煙突の高さがどう決まるか示した資料ではないです。
煙突の高さから、地表にどれぐらい拡散するかは見積もることができる。その見積もりのもとで、煙突の高さが決まっていると考えるのが自然だということです。
それより、あなたは、「火力発電所からの汚染物質は住宅密集地に飛んでこない」とか書いてますが、結局、煙突の高さが高いから安全だという話に根拠が無かったことを認めないのでしょうか? 無責任な話だ。
いちおう、関連するURLをあげておきましょう。
http://www.nisa.meti.go.jp/safety-tohoku/denki/denkihoan/karyoku/tebiki/Q&A.htm#Q19
http://www.nisa.meti.go.jp/safety-tohoku/denki/denkihoan/karyoku/tebiki/baien_kisairei.pdf
http://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/1298/1/baien.pdf
私が本エントリーで指摘しているのは、煙突があると汚染物質を拡散できる事で、そこに何か異論があるのですか? gdgd さんは煙突に何の意味もないとお考えなのですか?
また、現在の市街地の汚染源の原因は大半はガソリン/ディーゼル・エンジンである研究も参照した上で、火力発電所の汚染物質が市街地に拡散していない事を指摘していますが、そこに対しては何も留意されないのでしょうか?
コメントを投稿