2011年6月21日火曜日

電力自由化で原子力発電所は無くなる?

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電力自由化で原子力発電所は無くなる事を前提にしている人がいる。理由は二つあるのだろう。一つは多額の投資が必要になり回収が長期に渡る原発に、電力会社が投資を嫌がると言う主張だ。もう一つが、福島第一原発の災害・事故のように重大事故が発生した場合に、政府保護がないと電力会社が耐えられないため、民間が参入できないと言う主張だ。

これらの主張はもっともらしく思えるが、電力自由化が行われている英国や米国でも原発新設計画が持ち上がっているため、実は説得力が低い。英国や米国の動きは、化石燃料価格の高騰と地球温暖化問題が、自由化された発電会社にも原発を選択する誘引として働いているためだ。

1. 民営化・自由化後の英国は原発回帰

英国は90年代の民営化の後、原発を保有する発電会社BEが経営危機に陥り、原発への投資は縮小した。主な理由は原油安だ。しかし、資源価格の高騰で、英国の電力料金は急上昇する事になった(日経ビジネスオンライン)。2001年から2005年までは欧州で最も安い料金であったが、2006年以降は最も高い。

地球温暖化問題もあり、2005年秋から英政府も原子力政策を見直して許認可や廃棄物政策を改善し、「商業ベース」での建設を推奨している(日本原子力産業協会)。福島第一原発事故発生後も、8ヶ所での原発建設が進んでいる(Bloomberg)。BEも2008年にフランス電力公社(EDF)に買収され、経営の安定性を取り戻している。

2. 自由化後の米国は原発回帰

米国は州によって電力行政が異なるので、全ての州で電力自由化が行われているわけではないが、全体的に電力自由化は進展している。電力自由化後に新設された原発は無いが、停止していた原子炉の再稼動が1998年以降に進んでいる。

電力自由化と言えども、放射性廃棄物処理などのバックエンド処理は官営で行われており、その点は民間負担が少ない。また、ストランデッドコスト処理が自由化プログラムに組み込まれている。これは、非自由化市場を前提とした設備投資を行ってきた電力会社に、民営化によって生じる設備余剰による負担を、消費者に転嫁する仕組みだ。これがあると設備投資が多い原発が有利になるため、原発の稼働率が増す事になっているとされる(日本エネルギー経済研究所)。ただし約30基の新設計画があるものの、LNG価格の下落などもあり、着工まで目処がついているものはない。

3. 化石燃料価格の高騰と、地球温暖化問題が原発を推進する

完全に政府関与が無くなれば、原発は産業として成り立たないのは同意できる。核燃料サイクルと言う構築中のプロジェクトがあるためだ。しかし、英国と米国のケースを見る限り、電力自由化が即、脱原発につながるかは疑問を抱かざるを得ない。

化石燃料価格の高騰は深刻で、2008年をピークにだいぶ落ち着いたものの、2001年と比較すると近年は原油で3.5倍、LNGで2倍、石炭で4倍となっている。新興国の経済成長次第となるが、この上昇傾向は続くであろう。またCO2排出権取引のような地球温暖化問題対策が始まると、化石燃料を用いるコストはさらに上昇する事になる。

競争的な市場の発電会社は、なるべく安い発電源を選択しようとする。政府は長期的な電力供給の安定性や地球環境問題を重視するはずだ。電力自由化すれば、発電会社にイニシアティブが移る。しかし、発電会社と政府の思惑が原子力で一致していれば、電力自由化で原発が無くなる事はない。問題は化石燃料という代替物との相対的なコストの差異であって、原発の初期コストやテールリスクだけが問題では無い。

2 コメント:

santa301 さんのコメント...

 たしかに、3.11以前であれば、その可能性は高かったと思います。
 ベンチャー企業が新規参入するなら、原子力は見かけのコストを下げることが出来ます。
 そして、万一事故を起こしても、会社がつぶれるだけですから、失うものは限定的です。(後始末は、国がしなければならない)
 しかし、今後の日本では、「原子力発電所を作ることを、地元および周辺自治体に認めてもらうこと」が事実上非常に大きな障害となるのではないでしょうか。

uncorrelated さんのコメント...

>>santa301 さん
コメントありがとうございます。

このエントリーを書いた目的は、化石燃料価格の上昇が続けば、電力自由化のするしないに関わらず、原子力へのニーズが高まる事を指摘することです。

「原子力発電所を作ることを、地元および周辺自治体に認めてもらうこと」は政治的な問題で、電力自由化とは別の問題だと考えています。

もちろん、3.11以後は事故発生確率と予想される損害額の再考を求められる状況になっているため、今の化石燃料価格でも、脱原発を選択する可能性はあると思います。

再発防止がどの程度の精度でできるかにかかってくるのでしょうね。

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