2011年6月5日日曜日

経済学者を自称する池田信夫の破綻文章

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菅首相と鳩山前首相の交わした覚書に関連して、暗黙の契約について経済学者を自称する池田信夫氏が「菅直人氏のホールドアップ」という記事を書いている。

政治家同士の約束をゲーム理論によって説明される不完備契約だと考え、「繰り返しゲームも最終回になったら、首相のように前言を翻して裏切ることが合理的」だと説明している。みんなの党代表の渡辺喜美氏も繰り返しゲームのように政治家の人間関係を説明しており、分析手法は不自然ではない。しかし、文章的には破綻している。

1. 短期だと成立しない?する?

辞任時期は菅首相と鳩山氏の間の暗黙の契約になるわけだが、暗黙の契約は長期的な関係が残されているときのみ成立すると言いつつ、短期的な関係でも成立すると述べている。

しかしこうした曖昧な契約が役に立つのは、両者に長期的関係があって善意をもって再交渉に応じる場合に限られる。
ワンショットのゲームでも契約を書く(あるいはエンフォースする)コストが高い場合は意図的に曖昧にすることが合理的になる。

相反した理論的結論を並べられると、論理的に破綻しているようにしか感じない。

2. 暗黙の契約は再交渉のため?

池田氏は暗黙の契約は再交渉のためだと述べている。しかし、池田氏が示した以下の例では契約改定が双方に利益があるため、契約書の内容は重要ではない。両者が相互に納得している場合は、契約の変更が問題になることは無い

たとえば「納期に遅れた場合は契約は無効とする」と書いてあると「1週間待ってください」という話ができなくなり、契約をキャンセルすると依頼したほうも困る。だから納期を遅らせる代わりに割り引くといった再交渉の余地を残すために、契約を曖昧にするのだ。

3. 暗黙の契約を結ぶ理由

厳密に契約を詰めない理由は色々あり、厳密な契約を結ぶコストが大きいか不可能であること(限定合理性)、観察可能な契約内容に固執し他の点を考慮しなくなるなどがあげられる。業績評価にならない仕事をしない同僚を思い浮かべて欲しい。また、池田氏の引用しているBernheim and Whinston (1998)は、不完備契約しか結べないときに、可能な限り厳密な契約を結ぶよりも、曖昧な部分のある契約を結ぶ方が合理的であるケースを示している。

安田洋祐政策研究大学院大学準教授のブログを見る限り、他にも不完備契約でも問題ないケースが多々あるようだ。不完備契約による非効率性を主張するには、問題の詳細な定式化が重要と理解して良いと思う。

4. 池田氏の問題は定式化の不足

池田氏の文章が破綻しているように思えるのは、先行研究やゲーム理論の定理を引用しつつも、どの理論や定理を駆使して分析を行うか明確化されていないためだ。暗黙の契約は短期では非効率と言いつつ、短期でも効率的な理論を引用しては、論理矛盾と指摘せざるをえない。

菅・鳩山覚書問題のゲーム木でも書いて議論をすれば、もっと説得力のある文章にはなったと思う。しかし、もしそうしたとしても、次の理由で現実的ではない。

5. 菅・鳩山合意は強制履行可能

内閣不信任案は同一国会会期中は一度しか提出できない(一事不再議原則)のは慣例の問題で、法的には再審議不能だが再提出ができる。鳩山氏が国会外で議員の同意を得てしまえば、菅内閣は崩壊する。

結局、今の報道を見ている限りは、復興基本法案の成立と平成23年度第2次補正予算案の編成の目処が立ったところで退任に追い込まれる可能性が高そうだ。鳩山氏が息巻いていることには迫力がないが、与党内の求心力が急激に低下しているのは間違いない。

6月中に退任になるか、7月以降にずれ込むかは分からないが、菅首相は任期の引き延ばしには失敗したようだ。菅首相が内閣不信任案ゲームのルールを、良く理解していなかったと言う事になる。

こうして見ると、菅氏はナッシュ均衡もmin-max定理も関係ない、ゲーム理論を根底から揺るがす恐るべきプレイヤーだと言う事になる。もちろん菅氏の思い描いているゲームのルールはさらに複雑で、今後、予想だにしない事が起きるのかも知れない。しかし、プレイヤーの行動原理が理解不能か、ゲームのルールが把握不能なのは間違いない。ゲーム理論の適用には、両方の把握が必要だ。

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