2011年6月5日日曜日

池田信夫の原発コストへの誤解

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経済学者を自称する池田信夫氏の原発コストへの言及で、幾つか根拠が怪しい点があるので指摘したい。

事故状況や損害規模が不確定な状況なので、今後の試算でも原発は最も廉価な発電方法であるとも限らないが、池田氏がコスト的に原発が火力に劣るという主張は根拠を欠くように思える。

  1. 原子力は経済的だが、核燃料サイクルや安全対策を含めるとコストが高い』と主張しているが、原発が最も廉価になっている電気事業連合会の『モデル資産による各電源の発電コスト比較』では、どちらも含まれている。
  2. 大島堅一立命館大教授の分析から、原発のコストが火力発電より高いと主張しているが、大島教授の分析では、2000年代の補助金込みの原発コストは8.93円/kWh、火力発電は9.02円/kWhで、原子力+揚水のコストが10.11円/kWhになっている。現状では原発を最大稼動させても夜間電力需要さえ超える事がないし、原発も出力調整運転は可能なようには出来ているので、原子力+揚水のコストは、原発コストとは言えない。ゆえに、池田氏の認識もおかしい事になる。
  3. 火力発電所の燃料価格について言及がない事も、奇妙に思える。90年代のように化石燃料価格が廉価であれば火力発電所のコストは圧倒的に良い。しかし、原油や石炭は急激に価格が上昇しているし、LNGは乱高下する傾向あるものの、それでも10年単位で見れば上昇傾向にある。
  4. 以下のエントリーの追記部分で福島第一原発の事故による、原発コストへの影響を考察しているが、経済学的にはおかしい。
    追記:大島氏の試算には、事故の補償費用が含まれていない。福島第一のように数兆円の損害賠償が発生するとコストは跳ね上がるが、これも確率で割り引いて保険でカバーすれば大したことはない。原子力損害賠償法を改正すればよい。
    政府が払おうが、保険会社が払おうが、コストはコストで計算しないといけない。また、事故の賠償金額や補修費用は、事故発生確率で期待値にする必要性は認識しているようだが、賠償金額や補修費用、事故発生確率を仮定しないと高いも安いも言及できないことを忘れている。

(1)と(2)に関しては、池田氏が参考資料を読み込んでいるのか疑問を感じざるを得ない。

池田氏は原発推進派なので、現在コスト以外の原発のメリットを強調したかったのかも知れないが、以上の4点で主張の根拠がおかしいものとなっている。経済学に限らず、社会科学分野では思考の過程が重要なのであるから、経済学者を名乗る以上は、もっと根拠に留意して議論を進める必要があるであろう。

6 コメント:

Chiznops さんのコメント...

大島堅一氏の試算は、有価証券報告書から過去の実績値としてのコストを試算しています。しかし、バックエンド費用に関しては経産省がデータを出さないので推計が多く含まれています。河野太郎氏はバックエンド費用の開示を経産省に何度も求めたそうだが、黒塗り資料しか出てこないそうだ。大島氏の試算には含まれていない高速増殖炉に関する費用なども含めた場合、相当に悪い数字が出て、公表できないのだと思います。今後化石燃料がさらに高騰しても、原子力はコスト競争力で火力に適わない可能性が大きい。いずれにしても実績コストを出さずに「モデル試算」でごまかす経産省のやり方は詐欺に近いでしょう。

uncorrelated さんのコメント...

>>Chiznopsさん
コメントありがとうございます。
大島教授の試算でも、電気事業連合会の試算でも、原発コストが一番低いのは確かです。河野太郎氏の主張は、その黒塗りの返答書を見てみないと、何とも言えないですね。
今の所は、根拠となる数字があるだけ、原発コストが最も安いと見なすのが妥当では無いでしょうか。

Chiznops さんのコメント...

大島氏の試算では、全期間の実績で比較した場合は原子力が一番高コストですね。どの期間でも一番安いのは水力のようです。

いずれにしてもこれらの試算には高速増殖炉を中心とした燃料サイクルのコストが含まれていません。ウランを燃やすだけで火力とほぼ同じコストなのであれば、原子力を推進する意味はあまりありませんね。フランスやアメリカが高速増殖炉を断念したのは、コストに見合わないと判断したからでしょう。

今後化石燃料のコストが上昇した場合には、再生可能エネルギーのコスト競争力が相対的に上がっていきます。私が注目しているのは高温岩体発電で、電中研の試算では12円/kWhとなっています。オーストラリアのハンターバレーでは1万kWの実証機を建設中で、20万kWの商業発電所を2013年に建造する予定だそうです。

uncorrelated さんのコメント...

>>Chiznops さん
将来コストを考えると、70年代からの全期間ではなく、2000年代のコストを考える方が妥当だと思います。原発が廉価になったと言う事ですね。
また、2000年代は急激に火力のコストは上昇しており、今はもっと原発コストが廉価になっていると思います。

高速増殖炉は、将来技術なので「もんじゅ」の稼動状況を見てコスト計算をする形になると思います。
化石燃料の価格を背景に、米国も研究開発を再開するとか噂が出ているので、今後はもっと活発になるかも知れません。

高温岩体発電は注目の技術ですが、日本の賦存量は需要の2.5%程度らしいので、主たる発電源にはならなさそうです。
しかし、洋上浮体風力発電もそうなのですが、技術的可能性は常に探る必要はあるので、研究開発を確実に進めて欲しいとも思います。

Chiznops さんのコメント...

2.5%と言うのは、NEDOの資料にある2900万kWからだと思いますが、これは地下3kmで250℃に達する候補地18カ所を調査して合算した値ですので、高温岩体資源の日本における賦存量ではありません。数キロ掘って200℃に達するような地域は日本に広く分布していますので、潜在資源量としては莫大なものになります。IAEの資料の中に高温岩体資源量として110000万kWeというのがありました。皮算用かもしれませんが、可能性としては注目に値します。

uncorrelated さんのコメント...

>>Chiznops さん
なるほど、もっと賦存量があるわけですね。
どちらにしろ、パイロット施設があってもよさそうな気はします。NEDOでは、2003年ぐらいで頓挫してしまったみたいなのは残念な感じです。

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