2011年3月14日月曜日

福島第一原発の状況は、危機的だが適切に進んでいる

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東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)と付随する津波によって、打撃を受けた福島第一原発だが、状況は予断を許さない状況だ。

事故の状況が明確になる前に、普段は─経済学者でも無いのに─経済政策を論じている論客や、証券取引法違反で最高裁に上告中の論客が状況を説明しだしたので、官邸発表と報道から、現在分かっている状況を整理しておきたい。

1. 地震と津波によって受けた被害

電力喪失と配管損傷が現在起きていると考えられる。どちらも回復の見込みは薄いようだ。

1.1. 電力喪失
官邸資料によると、原発設備を制御するための電力が失われ、二次災害により回復手段が失われた。3月11日15時42分に全交流電源喪失し、同日15時45分にバックアップ電源用のオイルタンクが津波により流出している。さらに、同日20時30分に主分電盤(M/C)水没となっている。当初、電源車の手配が急がれていたが、未だに電源が回復していない。これは、20時30分に二次災害により設備が打撃を受けたためではないかと考えられる。
1.2. 配管損傷
大量の水を注入しても原子炉水位の上昇が見られないため、水位計が正しければ、一次冷却水が失われている可能性が高い。水蒸気などの状態で、配管などから漏洩している可能性がある。特に3号炉の配管で大きな漏れがあるようだ。

他にも福島第2原発では冷却系のモータや、海水の取水機構に問題がある事が報道されており、福島第1原発でも同様の問題が発生している可能性はある。

2. 問題は、崩壊熱を廃熱できないこと

基本的な構図は簡単で、核燃料が自然に発生させる崩壊熱を、冷却系喪失事故により廃熱できない事に尽きる。廃熱が十分できないので、水蒸気爆発の危機、水素発生と爆発による建屋外壁崩壊(さらに放射性物質の漏洩)、燃料ペレットの融解など、次々に問題が発生していると考えて良いであろう。

3. 連鎖的核分裂は抑制

核爆発は構造とオペレーションにより回避されていると言える。

軽水炉の核分裂促進剤は「水」である。しかし、核分裂が進むと温度があがり水泡が増えるため、核分裂が抑制されてしまう。構造上、軽水炉の核分裂は安定している。

また、地震発生直後のオペレーションで制御棒の差込に成功しているため、核分裂は停止しているとされている。

4. 水蒸気爆発は回避

官邸資料によると、当初は1号炉、後に3号炉のドライウェル圧力が高いと記されていた。これは原子炉格納容器内の気圧の事で、原子炉圧力容器の加熱により水蒸気が発生したためだと思われる。

原子炉は一定の圧力には耐えられるが、過度な圧力を長時間かけると、原子炉の破壊をもたらす恐れがある。原子炉の破壊は、広域に放射性物質を散布する結果になるため、最も回避すべき最悪のシナリオである。これに関してはベントを開放する事により、問題の回避に成功している。

水蒸気圧を逃すことにより、放射性物質が外部に漏れることになる。多くは半減期の短い物質ですぐに無害になるが、ベント開放直後の12日の14時49分に、原発敷地内から半減期が30年と長いセシウムが観測されている。

5. メルトダウン(炉心溶融)は回避失敗

日本政府からIAEAへの報告では、燃料ペレットの融解、つまりメルトダウンが報告されている。1号炉と3号炉でメルトダウンが発生した。これはこれは核燃料が自熱で溶け出した状態だ。冷却系の故障により、圧力容器内の水位が低下し、燃料棒が露出したためだと考えられる。

メルトダウンを放置すると、溶けた燃料が原子炉の底に落下する。すると下部にたまっている水により再臨界を迎えて加熱が加速し、圧力容器、ついでは原子炉を熱で融解して破壊する可能性がある。

6. 1号炉建屋の外壁破損で放射性物質が漏れる

12日の15時30分頃、恐らく水蒸気が被覆管のジルコニウムと化合して発生した水素が引火して、1号炉の建屋上部が爆発し、外壁が破損した。これにより、建屋内に流出していたと思われる放射性物質が飛散し、屋外でバスやヘリコプターで避難を行っていた周辺住民に、軽度だが被曝者が発生する事となったようだ。この事故の直後に、瞬間的な高濃度の放射線量の増大(500μSV/h)が観測されている。

7. 現在の目標は、原子炉の破壊防止

どの時点で原子炉の廃棄を覚悟したのかは明確ではないが、現在の目標は、原子炉の破壊防止であるのは間違いない。再臨界を防ぐべく、ほう素と海水を圧力容器内に投入しているが、これは原子炉の廃棄を意味する。

原子炉の破壊は強い放射性物質の飛散をもたらし、チェルノブイリ原発事故と同等の被害をもたらすと考えられているため、死守すべき最終防衛ラインとなっている。核燃料は圧力容器と格納容器で二重に覆われており、外側の格納容器まで破壊する状態になるかは分からないが、冷却に失敗すると原子炉の強度を試すことになる(A Successful Failure)。

8. 経済的・政治的理由で判断は遅れたか?

結果論で言えば判断は遅れたと言えるが、経過を追いかける限りは妥当な判断となっている。

まず、冷却系が回復すれば最も効率よく冷却が可能、つまり安全であるため、電力の回復処置を試みたのは当然と言える(追記(2011/3/14):14日9時に福島第二原発1号炉、2号炉は冷却能力が回復している)。証券取引法違反で最高裁に上告中の論客が、経済的理由で判断が遅れたと指摘しているが、妥当とは言えない。

また、首相視察でベント開放が遅れたと言う見解もあるが、12日7時51分にベントの電磁弁電源復旧作業を実施中となっているため、全交流電源喪失で作業が実行できなかったと考えるのが妥当であろう。

9. 輪番停電と関係はあるか?

無関係ではないが、他の多くの原子力発電所と火力発電所(広野・常陸那珂・鹿島・大井・東扇島)が停止、もしくは一部停止状態になっており、福島第一原発の問題だけが影響しているわけではない。そもそも計画通りに原子炉冷温停止になっていたとしても、点検と再始動で原発の電力供給には日数がかかったはずだ。

10. 福島第一原発は安全確保は可能か?

地震前に災害対策が万全であったかは今後の調査を待たないと分からないが、地震発生後の対応は概ね妥当なもののように思える。福島第一原発の状況は、危機的だが適切に進んでいる。原子炉が破壊された場合で、チェルノブイリのケースと同等の汚染があるとすれば、半径30Kmが数十年に渡って利用不能になりかねない。適切な対応が、望ましい結果をもたらす事を祈りたい。

しかし、傷ついた原子炉を無事に原子炉冷温停止に持ち込めるかは、未知の領域であって誰にも分からない(AFP毎日jp)。原発関係者が安全確保に苦戦しているのは確かで、NHKも安全確保めど立たずと報道している。

2 コメント:

T さんのコメント...

wikipedia 原子力発電より
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E7%99%BA%E9%9B%BB
現在の日本の商用原子力発電では、減速材、冷却材のどちらとも軽水を使用している。これは軽水炉と呼ばれる。

となっています。

こちらのブログの以下の記述と矛盾しているように思うのですが…。

3. 連鎖的核分裂は抑制

核爆発は構造とオペレーションにより回避されていると言える。
軽水炉の核分裂促進剤は「水」である。しかし、核分裂が進むと温度があがり水泡が増えるため、核分裂が抑制されてしまう。構造上、軽水炉の核分裂は安定している。

uncorrelated さんのコメント...

>>庶民 さん
コメントありがとうございます。
加熱すると核分裂を促進する減速材が消えるため、軽水炉の核分裂は安定的だという意味で書きました。

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